自動車向け組み込みソフト開発でも、オープンイノベーションの研究開発手法が採り入れられている。この11月、車載OSのAUTOSAR(オートザー)準拠のソフトウェアプラットフォームの製品名「Julinar(ジュリナー)」を発表したAPTJ(高嶋博之社長)も、多層的、業際的なオープンイノベーションのなかから誕生した事業体である。(安藤章司)

自動車向け組み込みソフト開発でも、オープンイノベーションの研究開発手法が採り入れられている。この11月、車載OSのAUTOSAR(オートザー)準拠のソフトウェアプラットフォームの製品名「Julinar(ジュリナー)」を発表したAPTJ(高嶋博之社長)も、多層的、業際的なオープンイノベーションのなかから誕生した事業体である。
APTJにつながる端緒となったのは、2003年にNPO法人として設立されたTOPPERSプロジェクト(高田広章会長=名古屋大学教授)だった。TOPPERSは、国産の組み込み向けリアルタイムOSの「ITRON(アイトロン)」の研究開発を行う団体で、組み込みソフト開発ベンダーや電気電子メーカー、自動車関連会社など100社余りが“手弁当”で研究開発にあたっている。成果物は原則公開されており、TOPPERSで開発されたITRONベースの各種モジュールは、自動車や航空宇宙、プリンタ、電子機器、モバイル機器など幅広く採用されている。
「ITRON」の開発は、門戸を広げ、多くのメンバーに参加してもらう点で、極めて重要な役割を果たしている。しかし、基本“手弁当”で会員各社が人的リソースを持ち寄って開発しているため、研究開発投資の金額が限られてしまう。そこで、名古屋大学が中心となって、より目的を限定し、まとまった予算で研究開発に専念できるコミュニティとして「AP(オートモーティブ・プラットフォーム)コンソーシアム」を運営。こうした活動のなかから、さらに一歩踏み込んだ“事業化”を目的とした株式会社組織としてAPTJを2015年9月に設立している。
原則自由に参加できるTOPPERS、まとまった研究費用を持ち寄ってより深く研究するAPコンソーシアム、事業化を目的とした株式会社組織のAPTJの「三段構え」のオープンイノベーションの枠組みを構築しているのが大きな特徴である。
とはいえ、詳細にみると、最初はITRONでスタートしたプロジェクトが、段階を経るに従って車載OSに特化したAUTOSARへ変遷していることがうかがえる。この背景には、一つに自動車産業が盛んな中部地区という土地柄、もう一つに欧州発のAUTOSARが車載OSの事実上の標準になりつつある外部環境の変化、三つめにITRONとAUTOSARはともにリアルタイムOSであり、技術的な共通点が多いことがあげられる。
次回はオープンイノベーション手法によるAUTOSAR開発をより詳しくレポートする。