東芝は、オープンイノベーションの場をOSSコミュニティに求めた。独自に開発したIoT/ビッグデータ用のデータベース(DB)の「GridDB」のソースコードを公開し、自由に使ってもらう代わりに、全世界あから知見をフィードバックしてもらう方式だ。すでに国内外のIoT絡みの実証実験で活用してもらえるようになったが、今後は、どのように収益モデルを確立させるかが課題となる。(安藤章司)
望月進一郎
商品企画部参事
OSSとして公開した以上、開発に携わるのは東芝だけではなくなる。同事業を担当する東芝インダストリアルICTソリューション社の望月進一郎・商品企画部参事は、「GridDBの開発が当社の手を離れることになるかもしれない。しかし、むしろそこまでいけば大成功だ」と話す。IoT/ビッグデータの処理は、従来のリレーショナルDBよりも、GridDBをはじめとするNoSQL系のDBが活用される可能性が高い。ここで自社に由来するプラットフォームを浸透させることができれば、「将来、さまざまなビジネスの可能性が広がる」とみている。
しかし、ここで課題となるのが収益モデルをどうするかだ。IoT/ビッグデータの現場でGridDBが使われていなければ、いくらすぐれた有償モジュールを開発しても、販売にはつながらない。さらに、世界の民間企業や研究機関・大学をはじめとする実証実験から得られた知見や新技術を貪欲に取り込んでいかなければ、イノベーションに追いつけない厳しい世界でもある。このオープンなイノベーションの輪のなかに身を置くことが、将来的な有償ビジネスにつながるというわけだ。
例えば、数学の高次元ベクトル手法を使って、1000万件の人物の顔画像データから特定人物を8.31ミリ秒で抽出する技術とGridDBを組み合わせる。2016年10月には、従来の約50倍の処理速度が出せるようになる「GridDB Vector Edition」の販売をスタート。大量の顔写真から特定の人物を見つけて照合する、大規模顔認証システムを容易に構築できるようにした。
ほかにも、GridDBの操作性を高めるユーザーインターフェース(UI)を独自に開発して、この部分は有償販売にするなど、「開発元ならではの付加価値をつけた有償モジュールを多数投入していく」ことで、収益につなげる。GridDBそのものは2011年頃から開発を始めて、13年に製品化へとこぎ着けた。企業の基幹業務に耐え得る堅牢性と拡張性を兼ね備えたIoT/ビッグデータ用のNoSQL系のDBだが、クローズのままでは世界の技術革新の大きなうねりのなかで埋もれてしまうと危機感を抱いた。ビジネス的な成功の確率を高めるには、OSSコミュニティにおけるオープンイノベーションの手法を採り入れたほうが近道になると判断した。