IoTを社会インフラに適用する一環として日立システムズが選んだテーマは「マンホール」である。マンホールは自治体や公益企業などが運営する上下水道やガス、電気を通す土管、配管の蓋で、ここにセンサを取り付けることで、維持管理を省力化、効率化できるとの仮説にもとづいたものだ。(安藤章司)
オープンイノベーションの布陣は、センサから上がってくるデータを統合し、遠隔で監視する日立システムズをはじめ、マンホールなど上下水道製品を製造するトミス、センサベンダーのイートラスト、通信機器ベンダーのシスコシステムズの4社。マンホールに関する知見が豊富なトミスの製品や施設を活用するかたちで、2016年5月から実証実験に取り組んできた。
主な監視対象は、マンホールの開閉状態、有毒ガスの発生有無、水質・水量の状態などで、マンホールの開閉に関しては、盗難防止やテロ対策に有効に働くことが期待されている。有毒ガスや水質・水量の状態についても、災害発生時に刻一刻と変わる状況を把握するのに役立てていくことを想定している。
マンホールを遠隔監視する発想は以前からあったが、コスト的に見合わなかった。ところが、IoTのコンセプトが一般化し、低消費電力のセンサと無線を組み合わせることで、コストを大幅に削減できることが判明。「IoTをきっかけとして、マンホールの遠隔監視サービスに向けた実現の可能性が一気に高まった」と、日立システムズの寺本昌由・IoT推進グループ主任技師は話す。
もう一つ、マンホールの内側に無線の発信器を取り付けた場合、マンホールの鉄板で電波が遮られてしまう構造的な問題があった。この点については、無線通信の技術的な向上と、IoTを前提に開発が進む省電力・広域通信が可能なLPWAが普及し始めたことで状況が変化。今回のプロジェクトに勢いをつけた。
主なユーザーである自治体や公益企業側も、少子高齢化に伴う財源問題や人手不足、維持管理対象の広域化が進んでいることから、現地に行く前にマンホールに関する情報を俯瞰できる遠隔監視へのニーズが高まっている。これまで人手になるアナログ業務をデジタライゼーションすることで、業務の効率化やコスト削減が見込めるからだ。
その一方で、マンホール×IoTの実証実験を進めていく過程で、さまざまな課題も浮き彫りになっている。次号で詳しくレポートする。