新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)は、筑波大学附属病院の病床配置を決める「病床管理業務」の課題解決に「デザイン思考」の手法を適用した。医師や看護師などによる毎週の会議で800床からのベッド配置を決めていたが、実はこの会議は医師と看護師の情報交換の場としても活用されていたことが判明。もし「デザイン思考」の手法を適用せず、そのまま要件定義に入ったとしたら、「実態にそぐわない、とても使い勝手の悪いシステムになっていた可能性がある」(NSSOLシステム研究開発センターの馬場俊光・イノベーティブアプリケーション研究部長)と話す。(安藤章司)
馬場俊光研究部長(左)と斉藤康弘上席研究員
そこで、「システム化によって会議をなくす」のではなく、「会議の場で使い勝手のよい病床管理アプリ」を提供することで、「会議の時間を総体的に短くする」アプローチをとった。毎週3~4時間ほどかけてベッドの配置を決めていたが、使いやすいユーザーインターフェース(UI)をもったアプリを開発することで、より迅速に、かつ的確にベッドの配置を決められるようにした。実際に使ってもらって、その使い勝手をヒアリングしたり、行動観察することでUIの問題点を抽出。改良を加えて、また使ってもらうサイクルを繰り返した。
今回の実証実験に参加した筑波大学側の研究者は、ベッド配置の「最適化に関する数学的な論文執筆」に役立て、NSSOL側は「デザイン思考の手法を習得、体系化する知見」を得た。NSSOLの斉藤康弘・上席研究員は、「デザイン思考は、既存の延長線上の改善ではなく、ゼロベースから新しいものを生みだすときに向いている」と話している。
IoTやAI(人工知能)を活用する領域は、既存のシステム開発の延長線上では要件定義が困難とされることがある。例えば、そこに「デザイン思考」を応用すれば、「ユーザーが本当にやりたかったこと」がみえてくるのではないかと期待される。