東北は地域企業のシステム開発案件が少ないことから、NPO法人の日本情報技術取引所(JIET)の東北支部は、首都圏の案件獲得に注力している。首都圏ではエンジニア不足が続いているため、距離が近い東北の人財にたいするニーズも高い。まさにWin-Winの関係となるが、東北支部ではSESよりも受託開発に重きを置いている。エンジニアの多くが、地元で働くことを望んでいるからだ。とはいえ、受託開発の受注は簡単ではない。そこで東北支部で結成したのが、「受注獲得グループ」である。(取材・文/畔上文昭)
SESから受託開発へ
伊藤 強
東北支部長
東北支部の会員企業は、多くが首都圏の案件を担っている。「東北ではシステム開発案件が少ないため、首都圏に頼っている。これまではSES(System Engineering Service)が中心だったが、首都圏の開発現場ではなく、地元で働きたいと望むエンジニアが多いことから、今後は積極的に受託開発の獲得に注力していきたい」と伊藤強・東北支部長は語る。
とはいえ、受託開発案件を獲得するのは、簡単ではない。「セキュリティの問題があり、簡単には開発を出していただけない。きっかけが必要」と伊藤支部長。ただ、安い人件費を求めて、システム開発を海外に委ねるオフショア開発が進んでいることを考慮すると、ニアショア開発の可能性は大いにある。
「海外に出すという選択は確かに有効な面もあるが、東北であれば同じ文化圏であるため、コミュニケーションがとりやすい。人件費も、首都圏と比較したら、1割から2割は抑えることができる。そして、何より技術力には自信がある」と、伊藤支部長はアピールする。こうした東北のメリットを生かすべく、東北支部で2016年4月に結成したのが「受注獲得グループ」である。
定期的に開催している商談会
ニアショア開発は東北が担う
受注獲得グループには、東北支部から15社が参加(16年8月現在)。共同での営業活動により、受託開発の案件獲得を目指すほか、SNSを活用し、「いまどのような状態か」「技術レベル、人財」といった情報の共有も行っている。
伊藤支部長は、受注獲得グループを軌道に乗せるために、「まずは受注獲得グループに仕事を出していただけそうな企業を対象に営業活動をして、実績を積み上げていく。獲得した案件は会員企業ごとに担うイメージだが、いずれはグループとして対応できる体制も整えたい」と考えている。
受託開発を複数社で請け負うには、担当の割り振りなど、どう仕切るべきかという課題が必ず出てくる。責任の所在をはっきりさせるのも難しい。それでも、伊藤支部長がグループで請け負うことを考えているのは、参加企業の特徴がはっきりしているからだ。「業務系や基幹系、自治体向け、組み込み、オープン系など、各社が得意分野をもっている。それらを総合力として、案件を獲得していく」のである。
また、受注獲得グループに仕事を出すメリットとして、窓口が一つながら多くの発注先が得られること、プロジェクト管理をグループで担うことなどを挙げている。そして、新幹線「はやぶさ」で仙台まで1時間30分であることから、打ち合わせに行って、牛タンを食べて帰るといった楽しみが増えることもアピールしていく考えだ。
地域の活性化への貢献
受注獲得グループは、会員企業の連携が深まることから、地域の活性化にも貢献できる。そして、こうした活動をきっかけに、新たな会員の獲得も進めていく。「現時点では、青森と秋田、岩手に会員がいない。各県で会員を獲得して、東北6県で受託開発を担う体制にしたい。今は個別にやる時代ではない。一緒にビジネスを展開していくのが、これからのスタイル」と、伊藤支部長は考えている
さらに、IoTやAIといったトレンドを見据え、ハードウェア関連の団体との連携も積極的に進めている。伊藤支部長は「どこから歩み寄ったらいいのか、互いにわからない部分が多い。まずは、そこを埋めていきたい」とし、東北支部の活動の一つとして、注力している。