キャッシュレスを巡っては、総務省も全国統一のコード「JPQR」と「情報銀行」を組み合わせるかたちで政策を打ち出している。経済産業省のキャッシュレス政策が売買データや行動履歴などのデータを活用し、新しい価値を生み出す産業育成を重視しているのに対して、総務省は地域の中小規模の小売業などがキャッシュレスの潮流に乗り遅れないよう“地域経済の振興”に主眼を置いている。(取材・文/安藤章司)
JPQRの普及促進に向けての施策として、この8月から岩手、長野、和歌山、福岡の4県で、キャッシュレスの加盟店に課される決済手数料が免除、または優遇されるキャンペーンを展開。経産省が10月から始めるキャッシュレス・ポイント還元事業の終了時期と歩調を合わせるかたちで2020年6月30日まで行う予定だ。
JPQRにはスマートフォン決済サービスを手掛けるNTTドコモ(d払い)やOrigami、KDDI(auPAY)、メルペイ、LINE Pay、ゆうちょ銀行(ゆうちょPay)などが参加するとともに、キャンペーン対象4県で期間中に2~3万店舗の参加を見込んでいる。
総務省のもう一つの柱は、情報銀行である。JPQRがデータを集める仕組みだとすれば、情報銀行はそのデータを活用する機構だ。JPQRと情報銀行の両方を担当している総務省の飯倉主税・情報通信政策課調査官は、「今はスマートフォン決済事業者がそれぞれデータを持っているが、例えば情報銀行を軸に地域の中小事業者でデータを共有できる基盤として役立てることを検討している」と話す。データ収集のJPQRと、データ活用の情報銀行をクルマの両輪として地域経済の振興に役立てることを視野に入れる。
売買データ、行動履歴などの個人に関するデータは、とかく大資本に集まりやすい。仮に地域の中小事業者が十分なデータを集められず、活用もできないとなれば、大資本との格差が一段と広がる可能性がある。そこで情報銀行では個人に関するデータを預かり、個人の同意に基づいて事業者が自由に活用できるよう配慮している。情報銀行に関しては、すでに総務省・経済産業省のガイドラインに沿った認定事業を日本IT団体連盟が始めている。
また、SIer側も総務省・経産省の政策に呼応してシステム需要の獲得に力を入れている。決済サービス基盤の構築を強みとするTISの岡本安史・取締役専務執行役員は「スマートフォン決済、情報銀行、データ活用の仕組みの3つを掛け合わせることでユーザー企業は収益力を高められる」と、案件獲得に力を入れる。(つづく)