視点

SI事業者が向きあうべきイノベーションのジレンマ

2021/06/23 09:00

週刊BCN 2021年06月21日vol.1879掲載

 「内製化の動きが急であることは承知しているが、案件規模は小さいので、売り上げや利益も小さく、雇用も維持できません」――。

 ある大手SI事業者の経営幹部から、このような話をうかがった。まさに「イノベーションのジレンマ」で語られている「破壊的イノベーション」が、SI業界では進んでいるようだ。

 イノベーションのジレンマとは、米国の実業家で経営学者のクレイトン・クリステンセンが提唱した経営理論だ。この背景にあるのは、クラウドサービスの充実と普及であろう。かつては、大手SI事業者に任せるほかなかったことが、小規模の企業や内製でも、できるようになってしまった。

 「市場競争のルールが根底から破壊され、既存企業のシェアが奪われるほどの革新的なイノベーション」を破壊的イノベーションと呼ぶが、まさに、SI市場では、この破壊的イノベーションが進行している。これに対峙する概念が「持続的イノベーション」で、既存顧客のニーズに合わせ、自社製品やサービスの価値を向上させることを目指す。

 SI事業者の多くは、この手段として、クラウドやアジャイル開発を取り込もうとしているが、これでは対処できない。「中長期的に絶対的な品質と安定を実現できるシステムを作る」ことから、「短期間での立ち上げと変更への俊敏性を持ち、いち早くITサービスを提供する」ことへと需要が変わりつつあるわけで、既存のやり方での対処は難しい。

 もちろん、これからも前者は必要だが、クラウドで代替できるようになり、ここでの工数需要が減少しつつあるのだ。

 「作る技術と組織力でまとまった人員を提供する」ことから「作らずに、いち早くITサービスを立ち上げ、俊敏に対処できる技術力を持つ個人を提供する」ことへの変化が求められるわけで、多くの社員を抱えるSI事業者にとっては、まさに破壊的イノベーションとなる。

 この変化に対処するには、いまの現実を受け入れることだ。その上で、自らも破壊的イノベーションに取り組むしかないだろう。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
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