DX、IoT、AIと中小企業にとっては近寄りがたい難しい言葉が並ぶ。これを消化せねば次の時代の経営は難しい。しかし、資金はない、人材はいない、経験もない。ないない尽くしの中で多くの中小企業が立ち往生しているのが現実ではないか。

 「むつかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」。これは井上ひさしの有名な言葉であるが、中小企業のDXでこれだけピタリとはまる表現はない。そしてこのやり方で、うまくこなしている企業も少なくない。こうすればお客さんが広がりそうだ、こうすれば次の製品開発のヒントをつかむことができそうだ、を考えれば良い。それが結果的にDXであったりIoTであったりする。

 A社の取り組みは、まさにこの見本のような事例である。同社は高精度加工機の製造、販売を行うメーカーだが、精度が高い製品ゆえに故障が頻発する。アジアでは日本とは気候が異なり、オペレーターの気質も異なる。どうしても故障が発生しやすい。遠隔地での高頻度の故障、これが長年の課題であった。

 そこで、製品である各種機械にセンサーを設置してデータを取得、それをクラウド上にリアルタイムで表示できるようにした。これによって同社から納品先に対して、専門技術者が遠隔で指導し原因究明や故障の修理、製品の使い方の指導を丁寧に行うことができた。

 中小企業なのに、なんでこんな手品のようなことができたのか。まず手掛けたのは、社長をトップとし各部署から人材を選抜してプロジュクトチームを発足させたのである。中小企業においては、まずトップが乗り出さないとDXはうまく進まない。

 そして、このDXの導入は意外な経営効果を発揮する。これまで売り切りであった機械のユーザーにリアルタイムで接触できたことだ。つまり、毎日営業活動しているようなものである。減価償却期間が長くユーザーと疎遠になりがちであった経営課題が一挙に解決した。

 もう一つはユーザーから毎日情報が入るから、次の新製品の課題がどんどん見えてくる。ユーザーが中国やアジアへと広がるにつれて、それに見合う製品のかたちが顕在化したことである。考えてみれば、中小企業にとってはDXこそがむしろ大きなチャンスなのである。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。2001年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。