「アジャイル開発に取り組んではみたが、うまくいかない」

 SI事業者の方から、こんな話しを聞くことがあるが、そこには三つの理由がありそうだ。

 まず、一つめは「システムを作ることを目的にしている」ことだ。アジャイル開発とは「現場の変化に柔軟に対応して、事業成果に貢献するためのソフトウェアを開発」である。事業成果とは、売り上げや利益などであり、仕様書通りにシステムを完成させることではない。

 二つめは「兼任/兼務でやっている」ことだ。エンジニアが仕事を掛け持ちすれば、集中が途切れ、習熟度も高まらない。稼働率は変わらないが、生産性は低下する。

 そして、三つめは「信頼して任せていない」ことだ。変化が早く、未来を予測できない時代にあっては、圧倒的なスピードこそが唯一の対処方法だ。そのためには、大幅に権限委譲された現場をよく知っている自律できるチームに任せるしかない。

 「計画が作れない」からだめだと言う人がいるが、それは間違っている。計画は必要であるが、それは一切の変更が許されない完全無欠の計画ではない。計画とは仮説であり、変化とともに修正すべきものであるとの理解が必要だ。

 また、自律できるチームは、自分たちのやっていることを自分たちでふり返り、不断の改善を繰り返して品質や進捗を高めていく。それを信頼せず、管理者が細かく介入しようとすれば、現場の自律は失われ、モチベーションは下がり、変化への即応力はなくなり、納期や進捗は守れない。

 アジャイル開発だけではない。物事の本質を突き詰めず、カタチだけをまねしようとしても、うまくはいはかない。DXも同様だ。本質を理解したDXも、手段をデジタルに置き換えるだけのDXも、表面上の行動はよく似ているが、結果はまるで違う。

 本質を追求せず手段だけを「それらしく」しても、うまくいくことはない。うまくいかない現実を、このような視点で問うてみてはいかがだろう。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。