視点

対面授業でこそ伝わる「言葉と熱意」

2021/12/08 09:00

週刊BCN 2021年12月06日vol.1902掲載

 新型コロナウイルス感染者の減少を受け、大学の授業もオンラインから対面に戻ってきてホッとしている。オンライン授業で学生が映像をオフにすると、パソコンに向かって空疎な一人しゃべりに陥り、違和感しかないのだ。学生にとっては、チャットを使った質問がやりやすいという意見もあるようだが、主語もなく日本語になっていない短文の意図を、講義をしながら同時に酌み取るのは至難の業だ。

 政府の審議会などでもオンライン会議を経験した。会議室に集まって行われるときは、事務局から変な提案があったとしても、首を傾げると周りの委員と目が合って、あうんの呼吸で誰かが異議を唱えることがある。

 ところがオンラインでは、委員同士で空気が伝わらない。勢い発言は減り、事務局案が簡単に通るといったことが起こる。

 授業でも審議会でも、オンラインだと参加者は内職しているかも知れないし寝ているかも知れない。それでも授業には出席した、あるいは会議で決めたというアリバイ作りはできる。それがいいことではないのは明白だ。

 私が講義を受け持っている国士舘大学でも対面授業が復活している。国士舘大学は警察官志望者が多く、著作権や知的財産の権利侵害やその対策を中心に、情報時代の秩序維持のあり方に言及している。

 先日は警察白書から統計データを取り上げた。犯罪の取り締りや防犯において、警察に期待する第一位は以前なら生命・身体・有体財産に関するものだった。しかし最近はネット犯罪となっている。国民の期待がある以上、警察はそれに応える必要がある。著作権・知的財産や個人情報の保護について勉強してほしいと思い、そう伝えている。

 ただ、警察官は必ずしも全ての法律について隅々まで熟知する必要はない。われわれ権利者やセキュリティ普及団体が必要に応じて協力するからだ。同時に、権利者側は何でも警察にお願いするのは正しくない。自らの権利を守るため為すべきことをするのは当然だ。まさに、「権利の上に眠る者は保護に値せず」。

 こうした言葉と態度で熱を持って伝えられるのは、やはり対面授業のよさだ。オンラインとのハイブリッドを否定するつもりはないが、教員と学生のためにも基本である対面授業に早く戻ることを願ってやまない。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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