政府共通のクラウドサービスの利用環境「ガバメントクラウド」による自治体システムの標準化・共通化に向けた動きが加速している。政府が掲げる移行期限の2025年度末まであと3年。全国約1700自治体のリフト&シフトの実現に向け、デリバリー人材の圧倒的不足などの課題が浮き彫りになる中、プラットフォーマー各社やSIerはどう動いているのか。号砲が鳴ったガバメントクラウド。プレイヤーたちが描く青写真に迫る。第2回は日本マイクロソフトの取り組みを紹介する。
(藤岡 堯)
「ロマンがない」
SIerや公共向けアプリケーションのベンダーといったパートナーにとって、ガバメントクラウドにおいて、どのプラットフォーマーと組むかは重要な問題だろう。現状、四つのプラットフォームがあるが、マルチで対応していくことは技術者の質・量の観点から難しい。加えて、ガバメントクラウドの目標の一つが「情報システムの運用経費などを18年度比で少なくとも3割削減する」ことである点も響く。自治体のコスト削減はある意味、パートナーのビジネス縮小を指し、多大なコストをかけてまでマルチに対応するモチベーションは生まれにくい。日本マイクロソフト業務執行役員の木村靖・パブリックセクター事業本部デジタル・ガバメント統括本部統括本部長は「(パートナーにとって)ロマンがない」と表現する。
木村 靖 業務執行役員
この状況の中で、マイクロソフトは「クラウドを使った高付加価値創造」を訴えているという。ガバメントクラウドの目的が、住民基本台帳や税、介護福祉、児童・子育て支援などに関連する20業務のシステム標準化であることは間違いないが、これらの基幹業務だけで終わる話ではない。周辺業務もデジタル技術によってアップグレードし、職員の働き方改革や、住民にもっと寄り添うかたちでの行政サービスの充実などにつなげることで、自治体DXは実現される。木村業務執行役員は「ガバメントクラウドは自治体DXの起点。ゴールではない」と強調する。この取り組みこそが「プラスアルファの高付加価値創造」である。パートナーは基幹業務のリフト&シフトにとどまらず、その先にある業務変革を支える役割があり、そこに商機が生まれる。
広範なポートフォリオがかぎ
付加価値を生み出すのは、米国本社が提供する広範なソリューションである。「Microsoft365」をはじめ、ローコード開発基盤の「Power Platform」、RPAツールの「Power Automate」、さらには傘下であるOpenAI(オープンAI)が提供するAI製品群──。「Microsoft Azure」によるクラウドインフラだけにとどまらない幅広いポートフォリオによって、総合的に自治体DXをサポートすることが可能だ。また、製品をまたいだデータ連携や、セキュリティの確保が容易なことも利点としてある。
これらの製品群を生かし、将来的な拡張サービスも視野に入れると、パートナーのビジネスの範囲はより広がる。木村業務執行役員は「総合的に見て『マイクロソフトっていいよね』という方向に進みたい。将来的な夢を語れる部分がある」と話す。実際に中長期的な視点に立ち、マイクロソフトの製品を選ぶベンダーは現れており「地方のSIerなどからは『最近のマイクロソフトは話をしていて非常にわくわくする。新しいことができそうだ』と言われる」こともあるそうだ。
パートナーの支援策については、リスキリングに向けた無償・有償のトレーニングメニューなどを用意する。ISVに向けては、パッケージソフトのクラウドシフトをサポートするため、Azureに加え、「GitHub」や「Visual Studio」などのツールを合わせたクラウドでの開発環境、テクニカルサポートを提供するほか、マイクロソフトのマーケットプレース、パートナーを通じた拡販など、販売面でも協力する。
23年4月には、マイクロソフトのクラウド領域におけるコミュニティ「MICUG(マイカグ)」内に公共・行政関連分科会を立ち上げた。政府・自治体職員をはじめとするユーザー側と、パートナーなどの技術者側のそれぞれにコミュニティをつくり、ガバメントクラウドに限らず、公共部門のIT活用に関する悩みに対する情報提供や、メンバー同士の情報交換の場として展開している。
地方重視の姿勢を鮮明に
また、地方を重視する姿勢を鮮明にしている。木村業務執行役員は「自治体のDXを推進するために、地方のパートナーとの連携は強化していかなければならない。その方針は明確に打ち出している」と語る。連携の拠点となるのは、都内を含め全国20カ所以上に設けた「Microsoft Base」である。マイクロソフトのテクノロジーを発信するとともに、地方のパートナー、自治体との共創の場になっているという。
パートナーとの向き合い方に関し、木村業務執行役員は「『われわれの製品を使ってください』というのではなく、新しいテクノロジー、イノベーションを使って、どのような事業が創出できるかを一緒に考えたい。地方のパートナーともガバメントクラウドの文脈だけでなく、高付加価値創造の部分を一緒に取り組みたい。そういうアプローチで(競合との)差別化を図るのがわれわれの考え方だ」とする。
ガバメントクラウドによる業務システムの標準化・共通化で言えば、マイクロソフトは実績で競合に先行されている面があり、機能やコストの部分でも大きな差を生み出せていないかもしれない。その中で木村業務執行役員は「ガバメントクラウドだけではなく、自治体全体のDXを支援していく部分をアピールしたい」と訴える。