「ChatGPT」の登場で「AIが人間の仕事を奪う」という話が、現実感を持って語られるようになった。しかし、これは本当だろうか。
例えば、AIを使った「GitHub Copilot」は、コードを書くと次に続くコードの候補をユーザーに提示してくれるので、コード生成の生産性は向上する。しかも、プログラミングに精通している人ほど、その効果が高くなるだろう。
日本語入力の予測変換能も同様だが、予測された言葉が、正しいことを瞬時に見分けることができなければ生産性は向上しない。また、この機能が使えても素晴らしい文章が書けるわけではない。プログラミングも同様といえる。
これは「AIが人間の仕事を奪う」のではなく、「AIを使いこなせる人間が、AIを使いこなせない人間の仕事を奪う」ことになる。
これまでなら、上流工程の人が、下流工程をほかの人に任せていたから、そこに工数需要が生まれた。しかし、上流工程の人が、下流工程の仕事を自分でやれば、その必要はない。
これは、社会のニーズともマッチしている。変化の速い世の中では、俊敏に対処できる能力が求められる。システム開発の現場もこれに応えなくてはならない。だから、上流から下流を全て内製化しようとユーザー企業は熱心に動いている。しかし、人手が足らず苦労している企業も多い。そんな彼らが、下流工程をAIに任せられれば、この問題は解消される。かくして「AIを使いこなせる“上流工程の”人間が、AIを使いこなせない“下流工程の”人間の仕事を奪う」構図が生まれる。
AIがますます発展し普及しても、「何を解決したいのか、何を実現したいのか」といった「問いを生みだす」ことは最後まで人間の役割として残るだろう。
「AIがプログラムを書くようになれば、プログラミングの勉強をしても意味がないのでは」
新入社員研修でこんな質問をもらったが、AIの時代だからこそ、人間はこれまで以上に、高い知性が求められ、人間にしかできない知識やスキルを磨き続けなければならないことになる。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。