▼ゆったりとした時間の流れに身を委ねながら、船で世界のあちこちを巡る旅は、なんとも贅沢な時間の使い方である。うらやましいことだ。前号で、長期連載『旅-経営者の目線』は最終回を迎えた。筆者の大塚商会前会長・大塚実さんは、最終稿を40日間の船旅とした。最終回の写真は「アホウドリ」だった。船は歩く世界が限られている。青い空を自由に飛びまわるその姿が印象に残ったのかもしれない。この連載は2002年2月4日号に始まり、3年7か月に及んだ。

▼この間を振り返ってみると。その前年の01年8月1日には、創業以来の肩書きを次世代の裕司現社長に譲った。40年に及ぶ社長業だった。その前年、00年7月14日には、東証1部上場を果たした。初値は7000円で、時価総額は2120億円。05年9月2日現在の株価は1万490円で、時価総額は3320億円だ。5年間に1200億円も企業価値を高めた。創業者は、人生そのものといえる経営を譲り、バトンを受けた新社長がさらに事業を成長曲線に乗せる。

▼今年で82歳の大塚さんは、新たな目的を掲げた。「美しい自然の保護と再生に向けて」である。(1)棚田の保護、(2)日本橋川の水質復元、(3)琵琶湖の水質浄化。なるほど、環境問題への取り組みだ。意気込みはというと。「大山千枚田にある375枚の棚田は、すり鉢状になっていて、あたかも古代ローマの劇場のようだ」。その保存会に、ショベルカーと管理事務所を寄付した。日本橋川の水質復元では「お江戸の中心にある日本橋の下で、子供たちが泳げるまでに復元したい」。そのために、10数億円の寄付を申し出ている。琵琶湖の水質浄化では、学者と一緒に水質悪化の原因を究明した。湖畔で冬枯れしたヨシが放置され、腐敗して水質悪化の原因となっている。「それではヨシを使えばいい。ヨシを20%混ぜ込んだ紙をすこう。それを企業が名刺などの紙に使えば消費循環ができる」。製紙工場を視察した。紙をすき、企業に声をかけた。「琵琶湖畔のヨシはすべて消費できるまでの紙の生産量がまとまった」。なんとも、エネルギーの強さに驚かされる。経営者の目線は生きている。(本郷発・奥田喜久男)