旅の蜃気楼

さようなら、前坂さん

2005/10/31 15:38

週刊BCN 2005年10月31日vol.1111掲載

▼「しょおないな、まだ、やりたかったこと、あったのに…」。柔らかいハスキーな声が聞こえる。唇を真一文字に結んで、にっこり笑っている。やさしい笑顔だ。メガソフトの前坂さん。23日午後6時、お通夜でお別れした。マイフェスの発売20周年を喜んでBCN編集部を訪ねてこられ「このソフトは今後も出し続けます。お客さんが待っておられますから」。彼らしく宣誓して元気に帰った。この時、記事にできなかった話がある。「前坂さん、書くね」。

▼世の中にはパソコンのソフトが“ごまん”とある。それらソフトは誰が開発したのだろうか。その多くはブラックボックスだ。開発者を特定できない場合を除いて、開発者を明らかにしてはどうだろうか。BCNなど新聞の記事も最近は執筆者を記す方向にある。前坂さんはいう。「マイフェスの開発者を、この際、明らかにしようと思っていたんですよ。開発者は山奥にいて、マイフェスだけを開発し続けているんです」。どんな方なんだろうか。「もう、すごい人なんですよ。僕なんかより、所得も多いんですよ」とにっこり。

▼前坂さんは熱く話を続ける。「ソフトの開発者は、このところ恵まれていないんですよ。新しく開発するでしょ。すると、すぐ、競合する商品が出て、極端な価格の戦いになるんです。利益が出なくなって、その競争に付いていけないから止めることになるんです」。数年前からの傾向ですね。「ソフトは継続性とユーザーのサポートがあって成長するんです。ここが大切で、ここにお金がかかるんです。お客さんとソフトが一緒になって成長するから、次の商品につながり、明日の市場が生まれるんです。このままでは、今いるソフト技術者が死んでしまうどころか、ソフトの開発者になりたいと夢をもって、この世界に飛び込んでくる若い子たちも、減っているんです」。

▼「マイフェスの開発者はソフト技術者にとってスターなんです。今のソフト業界には夢を語るスターが必要なんです。いつか、BCNのFace欄で取り上げて欲しいと、思っているんです」。前坂ワールドは次のステージに入った。ソフトは知恵と努力と情熱から生まれる。次の進化を期待している。さようなら、前坂さん。(宝塚発・奥田喜久男)
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