▼10月。多くの企業が下半期のスタートを切る時期だ。上半期の業績を踏まえ、経営トップが年度末に向けての方針を明らかにする機会でもある。企業業績とトップの経営方針といえば、ずいぶん前のことだが、取材中に面白い話を聞いたことを思い出す。

▼全国に拠点を構える、ある販売会社の営業部長が、長年赤字に陥っている営業所を独断で閉鎖してしまった。現場を熟知している部長は、この営業所の業績が上昇する見込みがないと判断したからだ。事後報告を受けた社長は驚き、当然ながら烈火のごとく怒った。「取締役でもないお前に、そんな権限は与えていない!」と。これに対し、当の営業部長は何と答えたか。

 「社長は、今年度の方針として『赤字拠点をなくす』と宣言されました。私はその方針をきちんと実現したのです」

 深刻な話なのに、思わず笑ってしまった。

▼これには後日談がある。“事件”からほどなくして、営業部長は取締役に引き上げられたのだ。本人は「放っておくと、何をしでかすか分からないと思われたのだろう」と謙遜するが、洞察力・決断力が経営トップに買われたのに違いない。そのことを裏付けるように、彼は社長にまで昇り詰めた。

▼予想もしなかった仕様変更で手戻りや追加作業を強いられ、赤字案件に陥ったなどという話はIT業界でよく耳にする。ピンチに直面した際に経営幹部がどう決断するかは、時代を問わず重要な要素となる。