防犯や設備管理のために普及したネットワークカメラが、AI技術の進化によってその用途を大きく広げている。クラウドや各種の業務システムとの連携が進んだことで、製造、小売り、介護、各種サービス業での導入が加速。各メーカーは、提案の幅を広げるべく、カメラ単体からパートナーとの連携によるソリューションの拡大を目指している。業界の最新動向、AI機能の活用例、販売戦略をテーマに、ネットワークカメラの主要メーカーであるアクシスコミュニケーションズ、ティーピーリンクジャパン、ビボテックジャパンのキーパーソンに話を聞いた。
(司会・進行:週刊BCN編集長 日高彰)
防犯中心から広範な分野に市場が拡大
――始めに、市場の状況とここ数年のビジネスの推移を教えてください。
岡本(アクシスコミュニケーションズ) 当社はスウェーデンに本社を置き、現在はキヤノングループ内の独立した企業として事業を展開しています。ビジネスのベースは従来からの防犯・防災分野ですが、AIの進化で高度な画像解析が可能になったことは大きな成長ドライバーになっています。現在は、スマートファクトリー、社会インフラ、リテール、ヘルスケア、その他のサービス業など、新しい領域でもビジネスが拡大しています。各種センサーや、API、ソフトウェア、クラウド、ネットワークなど、周辺技術との連携もビジネス拡大に貢献しています。
アクシスコミュニケーションズ
エンタープライズ営業本部
岡本秀一 本部長
目代(ティーピーリンクジャパン) 当社は、米国に本社を置くTP-Linkグループの日本法人として事業を展開しています。TP-Linkグループは、世界42の拠点に現地法人を展開し、そのグローバルなネットワークと自社一貫の製造ラインを活かして、高品質な製品開発を実現しています。
加えて、高いコストパフォーマンスと品質を両立した製品を提供することで、多くのお客様からご支持をいただいております。低価格製品でもアフターフォローを重視し、この4年間で販売台数は10倍以上に成長しました。また、一部の海外メーカーでは、販売代理店に最小発注数量(MOQ)を課して大量の在庫を抱えさせたため、結果的に代理店間の価格競争を招くといったケースが見られましたが、当社は代理店の方々ともWin-Winの関係を築いています。
ティーピーリンクジャパン
法人営業部
目代雄介 B2B VIGIマネージャー
佐藤(ビボテックジャパン) 当社は台湾に本社を置き、日本法人は2018年に設立しました。ビジネスのスタートは防犯・防災でしたが、今はAI機能、DX推進が重要なキーワードです。以前、AI機能は高価格帯モデルの付加価値という位置付けでしたが、最近は、普及価格帯のカメラをお使いのお客様からも、自社の業務システムと連携させてDX推進に役立てたいという要望が増えており、我々もカメラだけでなく、お客様のシステムと当社のAI機能を融合させるプラットフォームを提供する形へと変化してきました。例えば、人物の服装の色や種類といったメタデータを活用するためのインターフェース(API、SDK)を提供しています。お客様も防犯カメラをROI(投資対効果)が見込める対象として捉え、リテール店舗での客層分析に活用するなどしており、そうしたシステム提案がビジネスの中心になりつつあります。
ビボテックジャパン
佐藤稔浩 社長
目代(ティーピーリンクジャパン) 日本は、欧米に比べるとまだ防犯カメラの普及が進んでいない市場です。プライバシー意識が非常に高く、カメラを設置する際も、威圧感のあるバレットより、ドーム型が好まれる傾向が強い。しかし最近は、治安への不安感からか防犯機能への関心がかなり高まっています。例えば、不審者を検知すると光や音で威嚇する機能や、夜間でもカラーで鮮明に撮影できる機能などです。
岡本(アクシスコミュニケーションズ) 市場の意識には変化がありますね。かつてはプライバシーとの兼ね合いから、ビジネスの現場へカメラを設置することへの抵抗感が今よりも強くありました。現在はビデオデータが「自分や企業を守る」という認識が広がっており、特に人手不足が深刻化する中で、「従業員を守る」という視点が省人化と合わせて重視されています。また、同じ映像でも、防犯担当者、マーケティング担当者、人事担当者、経営者では見る視点が異なり、それぞれに向けた価値を提供できるポテンシャルが、DXビジネスの伸びしろになっています。
佐藤(ビボテックジャパン) 日本市場の特性としてもう一つ言えるのは、長期安定供給が強く求められることです。公共案件は特に顕著で、5年前、10年前のこのモデルをもう一度納入してほしい、という要望も寄せられます。半導体部品のライフサイクルを考えると難しい部分ではありますが、このようなニーズにどのようにお応えしていくかもメーカーにとっては課題ですね。
AI機能の高度化でソリューションの幅が拡大
――AIをはじめとする新しいテクノロジーを、どう製品やソリューションに活かしていますか。
岡本(アクシスコミュニケーションズ) 当社はAIという言葉を前面に出すより、AIの前提となる「画質」を徹底的に追求することを重視しています。コンピュータサイエンスの世界では「Garbage in, garbage out(ゴミを入れればゴミしか出てこない)」という言葉があるように、入力される画像の質が悪ければ、どんなに優れたAIアルゴリズムを使っても良い結果は得られません。
当社は映像処理の半導体を自社で開発しており、最新の製品では、低照度、逆光、高速で動く被写体といった厳しい条件下でも、鮮明でノイズの少ない映像を撮影できます。この高品質な映像が入力データとなることで、AIの検知精度は飛躍的に向上します。例えば、夜間の駐車場で発生したアクシデントなどで、車番、車種や色まで正確に識別できると状況把握の精度と時間短縮に大きく貢献できます。また、エッジ(カメラ本体)で高度な処理が可能になったことで、クラウドには必要な情報だけを送信すれば良く、ネットワーク帯域の負荷軽減ができます。今後は、増え続けるデバイスと映像データの管理、活用という運用面の効率化と、ネットワークインフラやストレージの最適化が課題であり、新たなビジネスチャンスにもなると思います。
目代(ティーピーリンクジャパン) AI機能を誰にでも分かりやすく、使いやすく提供することに重点を置いています。まず、お客様が最も不満に感じていた誤検知の多さを解決するため、AIで「人と車両のみ」を高い精度で検知する機能を標準搭載し、風で揺れる木や動物に反応して通知が頻繁に来る、といったストレスを軽減しています。威嚇機能も進化し、侵入を検知するエリア設定や、警告音のカスタマイズも可能です。
我々の強みは、コンシューマー向け製品で培ってきたUIで、専門知識のない方もどのような管理ツールでも直感的に操作ができます。人数カウント機能では日/週/月単位のデータを自動でグラフ化したり、人物の属性を指定して映像検索できる機能も追加費用なしで提供しています。「この価格で、ここまでできるのか」という価値の提供が、当社のAI戦略の核です。
佐藤(ビボテックジャパン) AI機能そのものの高精度化を追求しています。例えば、人を検知するだけでなく、AIが検知した人物に合わせて画像を自動で最適化する「リアルサイトエンジン」という技術を開発しました。動いている人の顔をブレずに鮮明に撮影したり、逆光の環境でも顔が暗くならないよう補正するなど、撮影条件をAIが自動で最適化してくれる技術です。
そのほか、転倒検知などの開発も進めており、こうした技術は工場での転倒事故の検知や、ヘルスケア施設での見守りなどへの応用が可能です。こうした独自のAI技術を、プラットフォームを通じて提供し、それぞれの業界に特化した課題解決を支援していくことが、私たちの今後のAI機能の方向性です。カメラを単なる「目」ではなく、現場の状況を理解し、判断を助ける「頭脳」として進化させていきます。
防犯・防災以外へ AIの活用領域が広がる
――ユーザーの業務改善にAIがどのように役立つかという観点で、より詳しくお聞かせいただけますか。
佐藤(ビボテックジャパン) 最もわかりやすいのは、これまで映像の検索にかかっていた時間です。警備業務の場合、以前は特定の対象を見つけ出すため過去1週間の映像をひたすら見続けなければならなかったものが、例えば「過去1週間でこの場所を通った黄色い服を着た人」で検索するだけで即座に映像を選び出すことができるようになりました。このような運用面の改善はかなり認知されてきたと思います。
岡本(アクシスコミュニケーションズ) 社会課題に対する省人化という観点では、例えば、防災分野で当社が提供しているソリューションに河川監視があります。線状降水帯の発生など災害が甚大化する中で、河川管理は人命に直結する業務です。そこで水位を画像監視して閾値を超えるとアラートを出したり、音声も加えて避難や待避勧告するといったことが遠隔で行えるので、省力化が図れて初動も迅速化できる。他にも、無人化をキーワードに、無人駅や無人店舗、公共サービスの自動化、省人化管理での使用例も増えています。小売業では映像と音声を統合することで「カスハラ」から従業員を守り、社員の満足度向上にも貢献する。製造業では、熟練工の勘や経験に基づく暗黙知を、AIで形式知に変えるといった取り組みも進んでいます。
目代(ティーピーリンクジャパン) 当社は「VIGI Cloud VMS」というクラウド型映像監視システムを提供しており、海外にも多くの支社を持つ大手物流企業に活用されています。例えば、本部から海外の物流拠点をカメラ画像で確認できるほか、当社のAI機能による物の放置検知によって、一定の時間場所を移動していない荷物があると滞留を知らせます。監視対象のカメラの数を無料で自由に増やすことも可能です。介護分野でのAI活用では、プライバシー問題から入居者の各室内には設置できないカメラを廊下に設置し、夜間から朝までは入居者がラインを超えたら検知して知らせるライン通知検知機能を提供しています。
――冒頭でプライバシーの話がありました。AIで高度な分析が可能になると、現場の方々もより敏感になると思いますが、そこに対して提案時にどのように気を配られていますか。
佐藤(ビボテックジャパン) 経済産業省が「カメラ画像利活用ガイドブック」を策定したことで何を守るべきかがかなりクリアになったので、まずはそれを順守することが一番です。販売パートナーの方々には業界の基本的なルールを私たちからお伝えしていますので、それを基にお客様にもご説明いただきたく考えています。どの企業もWebサービスを提供する際には個人情報の取り扱いに関するポリシーを定められると思いますが、それと同様に考えるべきでしょう。
目代(ティーピーリンクジャパン) 先ほどのVIGI Cloud VMSサービスではユーザーごと及びサイトごとに権限を付与できるようにしており、例えば東京のメンバーのみ管理設定ができて、それ以外の支社や他国は閲覧のみにするというマルチユーザー権限の割り当ても可能です。このような機能もうまく活用してコントロールいただきたいと考えています。
岡本(アクシスコミュニケーションズ) IoT製品に対する「セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度(JC-STAR)」の運用が始まりましたが、こうした基準の認証取得もお客様やパートナー各社への安心材料になると思います。当社は、日本で★1を取得しており、今後リリースされる予定の★2以降も対応を進めたいと考えています。
パートナーとの連携強化で市場自体の拡大を目指す
――26年の販売戦略、注力されるソリューションについて聞かせてください。
岡本(アクシスコミュニケーションズ) フォーカスエリアは製造業、社会インフラ、流通サービス、ヘルスケアなどになりますが、全ての業種のフィールドワーカー及びユーザーの皆様へ安全で効率的な環境作り、また社会課題に関連した課題解決に貢献したいと考えております。ソリューションでは、画像解析に加え音声やセンサーを組み合わせた解析ニーズが高まっています。カメラ製品はもちろん、多様な製品ポートフォリオを活用し、様々な種別の空間、対象物の可視化、効率的な遠隔操作、データ収集とシステム連携の向上により、お客様の多様なニーズに対応いたします。画像だけでなく、エンドtoエンドのトータル提案で、容易な一元管理やDX推進におけるお客様の潜在的なニーズに訴求していきます。
目代(ティーピーリンクジャパン) 大きく三つあります。まず、パイを増やすこと。日本市場には今も多くのメーカーが残り、パイの奪い合いをしている。私達はパイを増やすため、まだ防犯カメラを利用しておらず高価で難しいと考えている方々に、当社のコスパに優れた使いやすいカメラで慣れてもらいたい。さらにこんな機能もほしいとなれば、各社で連携して、皆で豊かになりたいですね。次に、プロフェッショナル向けの拡大です。例えば、当社の長距離無線LAN技術を使用すれば、今までは設置困難だった場所にもカメラを展開できます。このように、ネットワーク製品も合わせてご提供できる強みを生かして、プロフェッショナルからのより高い要求にもお答えしながら、提案を拡大します。第3は、学校、病院、ホテルなど、すでに当社の無線アクセスポイントを導入されているお客様へのカメラ販売です。
佐藤(ビボテックジャパン) 現状のお客様の主体はオンプレミスですが、今後はクラウド連携は避けられず、その強化がテーマです。ただ、クラウドでの映像保存はコスト高なので、オンプレミスのストレージに貯めながらクラウドとのインターフェースも備え、ある程度のカメラ台数を利用できて、少しのコスト負担でAI機能も利用できるというソリューションを提供しています。
このクラウドのプラットフォームが「VORTEX」で、そのハイブリッド版が「VORTEXコネクト」であり、既存のカメラを容易にクラウドベースで利用可能にします。従来のローカルのシステムはインストールの難しさがコスト高の要因でしたが、「VORTEX」なら、2次元コードをスマホで読み取れば設定できます。このソリューションを推進し、日本でのクラウドマーケット拡大を目指します。
VIVOTEK ハイブリッドソリューション
トレーニングを強化 体験を機に新たな可能性へ
――最後に、パートナーに向けた支援策を教えてください。
岡本(アクシスコミュニケーションズ) デジタルとリアルの両面で支援を強化しています。デジタル面では、シミュレーションによってセールスプロセスをサポートする「AXIS Site Designer」があります。これはグローバルで高い評価を得ているAxisオリジナルのデザイン支援及びシミュレーションツールで、対象施設におけるカメラの配置のみならず、様々な種類のカメラ画像比較、AI機能の精度、データ量などの確認、保存、共有がデジタル上で容易に行う事ができ、意思決定、アクセサリを含む機器選定、導入に向けた各種アレンジなどに要する時間を大幅に短縮することが可能です。
テクノロジーに加えて提案を支援する仕組みを提供するAxis
リアル面ではオンライン及び集合形式のトレーニングプログラムを拡張しパートナー様を支援させていただきたいと考えております。また、年間で1500名を超える方々にお越しいただいております東京、西日本のエクスペリエンスセンターや技術検証可能なラボを活用し、最新ソリューションの体験、お客様ニーズの確認、課題解決に向けたご提案などを実施しております。防犯・防災はもちろんのこと、セールス、マーケティング、ビジネス開発、経営企画、HRなど様々な役割をお持ちの方に体験いただき、画像データを活用した新しいアイデアの実現に役立てていただきたいと考えています。
目代(ティーピーリンクジャパン) まず、価格競争力のある製品の提供。次に在庫を抱えるプレッシャーを無くすこと。そしてアフターサービスの強化。加えて、弊社技術チームからの定期的な製品勉強会を設けています。さらに、マーケティングへも注力します。人員増員と合わせ、仕様書なども、分かりやすく全て日本語で見られるようにしてます。最後は、当社への理解をさらに深めていただくこと。海外工場の視察ツアーを定期的に実施しているほか、グローバルイベントでは新製品にいち早く触れる機会を設けてます。
佐藤(ビボテックジャパン) 日本法人はまだまだ少数精鋭の体制ですが、本社のリソースも活用しながらトレーニングやアカデミーに注力しています。今後はDX連携を強化します。DXを推進したいというお客様はとても多いものの、やり方がわからない、業務システムと当社のAI機能の連携方法が分からない、といった声を多くいただきます。そこに向けて、本社の協力を得ながらソリューションとしての活用の可能性を広げていきます。また今年、タイ工場が稼働を開始して台湾内だけに製造能力を依存するリスクもクリアできました。タイの拠点も皆様にご案内し、安心して当社製品をお薦めいだたけるようにしていきます。