旅の蜃気楼

千の風になった人たち

2007/03/12 15:38

週刊BCN 2007年03月12日vol.1178掲載

【本郷発】生き様が死に様。こんな言葉を知ってから、安易に死を見つめなくなった。天文学者の磯部琇三さんを知ったのは3月2日、産経新聞17面の記事だ。少し引用させていただく。『ゆうゆうLife』という欄だ。一部の新聞に1月、風変わりな死亡広告が載った。広告の出稿主は良子夫人とお嬢さんの琴葉さんだ。良子さんと琴葉さん連名での挨拶の後に琇三さんのメッセージが続く。「私は1942年7月16日に大阪で誕生以来60有余年の人生を終えることになりました。(中略)私は元々神の存在を信じておりません。そのような者が死んだ時だけ宗教に色どられた形式的なふるまいをするのは、理にかなっておりません。(中略)形式的な事はしないよう、また、遺骨等を残さないように家族の者に遺言してありますので、ご理解下さい。そのような訳でお香典などは固くお断り申し上げます」。

▼ここからが、山場だ。「もし、私に好意を持っていてくださった方々にお願いできるものでしたら、妻良子、娘琴葉に私とのお付き合いがどのようであったかなどを書いた手紙を送ってやっていただければ、この上もない幸いです。娘も、父がどのような人間であったか、理解してくれるでしょう。短くもあり長くもあった私の人生でしたが、ありがとうございました。 磯部琇三」。これが遺言状であり、広告の内容だ。

▼遺言状は16年ほど前に書いたもので、奥さんが預かっていた。亡くなる前に、当時と気持ちは変わっていないかを確かめた。「変わっていない」との返事だった。広告を出すのを最初はためらったが、掲載して80通近い手紙やメールの便りがきた。幼なじみや恩師、学生時代の友人、教え子のほか元同僚や国内外の研究者仲間などなど。『千の風になって』という歌がある。天国に行った人はお墓にはいない。あなたを守るためにあの大きな空を吹きわたっているから。

▼NECエレクトロニクスの前社長の戸坂馨さんが2月28日、すい臓がんで亡くなった。お別れ会は3月28日、高輪プリンスホテル、午後2時からだ。とても美しい人だと思っていた。64才という若さなのに…。

 「戸坂さん、もう大空を舞っていますか」(BCN社長・奥田喜久男)
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