▼トラックに自転車、オートバイがひしめき合う往来の真ん中を、大きな黒い生き物が悠然と横切っていく。土埃の向こうに目をこらすと、なんと黒光りする角を振りかざした牛である。デリーの中心部を離れると、至る所でそうした光景に出くわす。信号には全く無頓着な車の群れが、牛を前にすると妙にうやうやしく道を譲る。インドは現代と前近代が混在する不思議な国である。

▼街中にはスズキやホンダの車が溢れている。工場進出が早かっただけに、日本の製造業との合弁工場は国内に大きな雇用と所得を生み出す金の卵だ。BRICsのライバルであり、長年国境紛争などを抱える中国への反発もあって、商工省などの役所から民間に至るまで、日本との貿易に期待する声が大きい。

▼しかし、ことソフト産業となると、日本との距離はかなり遠い。年率20%以上の高度成長を続けるソフト産業のなかで、アメリカとの貿易額が全体の66%と圧倒的に高い。日本との貿易額はここ3年、1・5%から2%程度にとどまり、決して伸びてはいない。英語と日本語という言葉の壁。加えて日本企業は何かにつけて意思決定が遅く、優秀なエンジニアを割り当てにくいという声が多い。アメリカ相手のほうがスムーズにビジネスが進むというのが本音のようだ。日本にとって、インドは中国投資のリスクヘッジという面でも存在感は大きい。さて、この大国とどうつき合うか、そろそろ腰を据えて向き合うべきだろう。