旅の蜃気楼

五感をくすぐる台湾の夜店

2007/06/25 15:38

週刊BCN 2007年06月25日vol.1192掲載

【本郷発】夏の熱気でむんむんする夜に、カーバイトの匂いを嗅ぎながら、夜店を冷やかす気分は、幼い頃の爆発しそうな好奇心を満たすにはもってこいだった。昭和30年代の話だ。祭りになると、生まれ故郷の岐阜市にある天神神社の境内にはずらりと屋台が並んだ。日頃、神社に人気はなかった。それでも祭りになると、神社は人の集まる“華やかな場”に衣替えした。社殿も杜もステージを盛り立てる大道具のように感じた。今にして思えば、祭りと屋台が晴れがましい野外イベントだったのだろう。夜ともなると、高揚した気分で一軒ずつ、店の品定めをしては、何を買うか決めた。この頃を想うと、今もワクワクする。その思いが今も続いていて、旅先では祭りや夜店、人の集まる市場に吸い寄せられることが多い。

▼人の集まる“場”は、その土地の生活文化を丸出しにする。「五感」の世界だ。住み慣れた土地では感じない刺激が、五感を通して体内に入ってくる。匂い、色合い、形、言語、音楽、温度、湿気などに、五感はフル稼働する。この気分がたまらないのだ。先ごろ、台湾を訪ねた。高雄に寄った。この地では六合二路の夜店街を忘れてはいけない。ここを訪ねるのは2回目だ。波止場の夜景がきれいに見える漢来大飯店に宿泊した。ホテルは繁華街にある。地図とコンパスを頼りに、散策を楽しみながら、夜店街に向かった。

▼高雄は少し蒸し暑い南国だった。交差点にある道路名の標示板を確認しながらルートを取った。太い道路が走っている。街中には川があって、椰子並木もある。風も湿気を含んで生暖かい。「南国だな」と独りごつ。歩道は歩きにくい。街灯も少ない。そんな道をオリエンテーリングさながらに、目的地に着いた。もうそこは、異文化だ。独特の匂いと熱気が充満している。この夜店の通りだけが明るい。電灯のトンネルだ。屋台には見慣れない魚が並んでいる。見慣れない動物の内臓もある。ラーメンを食べている人たちがいる。店を冷やかす人も、店の人も楽しげだ。その昔、この夜店街を訪ねてから20年が経つ。それでも五感はこの雰囲気を覚えていた。旅というのは五感の感性機能の点検作業かもしれない。(BCN社長・奥田喜久男)
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