旅の蜃気楼

イエメン紀行(終)── 路地裏は“わが心のふるさと”

2007/08/06 15:38

週刊BCN 2007年08月06日vol.1198掲載

【イエメン発】最終回は、タリムという街での印象深い出来事を紹介する。

▼たくさんのモスクとミナレット(尖塔)を有し、古い街並みが今もなお美しいタリム。この街にある大きなモスクを訪れてみたいと思って路地を歩いていたら、たまたま僧侶たちをモスクへ送る車に出くわした。運がいいことに、一緒に乗せてもらえることになった。その車中で興味深いことを知った。お坊さんから名前を聞かれたときに、名字、名前の順序で答えてしまい、あわてて言い直した。ところが、日本ではそれが正しい名乗り方だということをお坊さんたちは知っていたのだ。もっと面白いのは、それを知ったのは、日本の漫画からだということだ。ある漫画のキャラクターの名前が僕の名前(まこと)と同じだったことから、日本式の名乗り方も知ったのだそうだ。

▼いままで何か国か旅をしてきて、日本の漫画を目にすることはよくあった。しかし、祈りを欠かさず、断食もして、戒律に厳しいと思っていたイスラムのお坊さんが、日本の漫画を読んでいるとは…。うれしかったのは、宗教が生活のすべてを締め付けるのではなく、プライベートな面を保ちながら、信仰と良好な関係を保つという考え方をしているように思えたことだ。

▼旅を終えて、少し間をおいてから、その旅で撮った写真を見返してみる。するとなぜだろうか、その旅の一番の目的であった壮大な自然や遺跡、個性的な建築物よりも魅きつけられる写真があることに気づく。なにかの特徴があるわけでもない路地裏や活気ある市場、子供たちの笑顔などの、なんとなく気にかかって撮った写真たちだ。そんな路地では旅という非日常でなく、日常の面白さ、懐かしさと出会うことがある。イエメンでも、路地裏では子供たちがサッカーや追いかけっこをしていた。そんな、誰もが幼い日に経験した思い出と深く結びついていて、それが今もなお続いている場所であるから、路地裏に懐かしさを感じるのではないだろうか。(商品企画グループ・吉野理)

 異国で、はっと驚くことがある。意外にも、犬とか猫を見かけた時だ。「あっ、一緒だ」といった具合だ。何だか、ほっと心が和む自分がいる。(BCN社長・奥田喜久男)
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