慣れというのは恐ろしいもので、最初は気味が悪かったせんとくんも、兄や祖父や恋人が登場して物語性が付与されてくると、何やら愛らしく思われてきた。この鹿の角が生えた童子、もちろん平城遷都一三〇〇年記念事業のマスコットキャラクターである。

 本書は、その記念事業の一環として、奈良県が中心となって進めている記念出版三巻本の第二弾。第一弾の『NARASIA――日本と東アジアの潮流』が、日本と東アジアの「これまで」を追っていたのに対して、本書は「これから」を提起する。日本と東アジアの未来を考える委員会(川勝平太委員長代行)と東アジア地方政府会合実行委員会(石原信雄委員長)の有志、40名の超のつく豪華な執筆陣が、政治・経済・科学・技術・文化など、極めて多岐にわたる分野をまたぎながら、論文・エッセイ・対話のかたちで論を展開する。例えば中谷巌が文化国家立国を、榊原英資が東アジアの経済統合を、呉善花が岡倉天心の「アジアは一つ」を、町田健が東アジアの言語文化を、金子郁容が日韓教育論を、といった具合だ。奈良は論の出発点もしくは終着点に過ぎず、論の一つひとつはあちらこちらを向いている。しかし、世界のなかの東アジア、東アジアのなかで日本を考える材料が、この700ページに凝縮されているといっていい。ごった煮だから手に取って楽しいし、どこからでも読める。

 オールカラーだからこそ実現したビジュアルと、随所に配された東アジアの現代アートが楽しい。(叢虎)

『NARASIA 東アジア共同体?』
日本と東アジアの未来を考える委員会 監修 松岡正剛 編集構成 丸善刊(3000円+税)