【神田発】「流通を制するものは市場を制す」。この言葉は週刊BCNが創刊号から編集の基軸に掲げたコンセプトである。産業は三つの機能集団で成り立っている。ものをつくる人、ものを売る人、ものを使う人だ。メーカーはマーケットシェアの獲得を争う。他社よりも優れたものを、ちょっと早く、ちょっと安く発売する。販売店は他店よりも立地の良い場所で、品揃えを豊富に、おもてなしの精神で、1円でも安く売る。

▼こうした戦いを経て、販売店はエリアシェアの獲得に走るようになった。シェアトップに立った販売店は最も優位な立場でメーカーに接する。仕切り率、キックバック、販促支援などの数々で、販売重点商品は決まる。販売店は資本力でエリアを押さえたのだ。そこにリーマン・ショックが発生した。世界市場を相手にするメーカーは収益が急速に縮小した。その間も国内では熾烈な値下げ合戦が繰り広げられている。メーカーの収益率は低下し、販売店担当の営業部門の人は疑問を感じ始めた。この戦いは実りのない消耗戦だ、と。海外ではサムスンが世界一を目指して、国を挙げての戦いに挑んでいる。わが国はどうか。つくる人たちは疲弊し、国内市場に嫌気がさし始めている。

▼コンピュータの第一号であるENIACがアメリカで開発されたのは1946年だ。以来、最近のiPadまでの60年余りで、日本のIT市場は成長期から成熟期に入った。この先の戦いを売価とキックバックに依存するとなると、国内市場でメーカーの疲弊はさらに深まる。今のメーカーは世界での戦いが主戦場だ。応援しなければならないはずの私たちが、メーカーの息の根を止めようとしている。国内の市場は限られている。飽和になって以降の戦いは、つくり手よし、売り手よし、世間よし、という「三方よし」の精神を基調にして、市場を育てる。つくる人、売る人、使う人は品質品種改良に情熱を注ぐ。世界を相手に戦う時代にあって、それができる企業に経営資源を集めるのが効率的だ。経済の戦いは、ワールドカップと同じく世界が相手である。(BCN社長・奥田喜久男)

近江商人発祥の地・滋賀県には「三方良し」という清酒がある