BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『その未来はどうなの?』

2012/10/25 15:27

週刊BCN 2012年10月22日vol.1453掲載

 今の世の中や社会、世界を、「よくわからないけれど、何となくわかっているところもあるから、まあいいか」で済ませている人は、そのうちどこかで「今はいいけれど、これからはどうするの?」の問いに直面する。本書は、一歩前に足を踏み出そうとしたとき、「なんでこんなに先が見えないのか」ととまどう人に、「こんなふうにわからなかったんだ」という気づきを与える。著者は「『世の中のことがよくわかる』という質の本ではない」と断言している。問題から距離を置いて見つめることで、もつれた糸を解きほぐし、なぜ「わからない」のかの仕組みを知り、問題の理解への入り口に立つための一冊である。

 紐解くキーワードを間違えると禅問答になってしまいそうだが、そこは手練れ、未来を考える指針として、例えば「テレビ」に「いい加減さ」、「ドラマ」に「生きる指針」、「出版」に「中央集権」、「経済」に「廃墟」をもってくる。一見結びつきそうもないこれらの言葉が、最後にはすとんと胸に落ちるから不思議だ。一番具体的な「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)加入」では、加入賛成派も反対派も「はじめに結論ありき」でしか議論していないと喝破し、損と得を考えられるだけ引き出して「想定外」をなくしておいて、「危機管理」の発想で臨めと説く。

 病み上がりの著者は、医者に「これ以上よくなるなりようがない」と言われたという。それを乗り越え、「しんどくてもあまりあきらめないほうがいいですよ」という言葉とともに届けられた本書は、「考えることを諦めない」という大切なことを教えてくれる。(叢虎)


『その未来はどうなの?』
橋本 治 著
集英社 刊(720円+税)

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