本社よ、覚醒せよ

 世を挙げて「グローバル進出」の時代だ。少子高齢化の波を受けて国内市場は縮小一途だから、海外に進出しなければならないというムードが企業の間に蔓延している。だが、「ちょっと待ってほしい」と、著者(東大ものづくり経営研究センター長)は主張する。

 といっても、いわゆる産業空洞化論を展開するのではない。長期的にみた「グローバル最適経営」という考え方に沿って日本企業が海外工場を増やしていくのはごく自然なことで、理に適ってもいるという立場だ。問題なのは、「よそが出たから」とか「このところ国内工場の原価が高い」など、雰囲気や短期的な判断で国内工場の閉鎖や移転を決めてしまう本社(経営トップ)の行為だ。

 日本企業の製造現場の強みは、長い期間をかけて多能工を育ててきたことにある。そして、顧客や社会の“きりがない”要求に応えていく「擦り合せ型」で設計する製品を生み出す能力をもっていることも見逃せない。実は、このような“きりがない”要求にこそ、日本の産業現場に生き残りのチャンスがあると著者はみる。なぜなら、機能に対する要求が厳しい製品は設計が複雑な「擦り合せ型」になりやすく、「多能的な技術者によるチーム設計」という組織力が生きる世界だからだ。

 「進化能力のある良い国内工場を、復元可能な形で、全社的な能力構築の核として残すことが、全社のグローバル長期全体最適のために重要」であり、この点から著者は「本社よ、覚醒せよ」と呼びかけている。(仁多)


『現場主義の競争戦略 次代への日本産業論』
藤本隆宏 著
新潮社 刊(720円+税)