BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『空洞化のウソ――日本企業の「現地化」戦略』

2012/08/02 15:27

週刊BCN 2012年07月30日vol.1442掲載

 アジアのなかで、突出して早く、規模の大きな経済成長を遂げた日本。しかしいま、国内市場は成熟化し、急激に縮小しつつある。翻ってアジア諸国をみれば、拡大する生産人口と旺盛な消費意欲によって世界の成長センターとしての地位を確立し、市場として測り知れない魅力に溢れている。日本企業はここに活路を求めるべきなのだが、このとき常に論議の的になるのが、海外進出によって国内で雇用の減少や技術水準の低下、所得の減少などが起きるとする「空洞化」への懸念だ。本書は、この懸念を定性・定量データを示しながら払拭するとともに、インドと中国に挟まれたASEAN諸国を中心とする「新興アジア」で日本企業が「現地化」することで、大きな果実が得られると訴える。

 結論から先にいってしまえば、国内企業が新興アジアに進出することで、国内雇用はホワイトカラーを中心に増大し、技術力と生産性は向上し、海外での収益は国内に還流する。……というと、いいことずくめのようだが、これには「現地化」という条件がつく。日本からビジネスを考えるのではなく、新興アジアが何を求めているかを把握して、日本のもつ技術やノウハウを現地に合わせたかたちで再編成して届けるのだ。サムスン電子が、なぜアジア市場で勝っているのかを考えるとわかりやすい。

 本書の主題は「新興アジアと日本企業の共生」にあり、空洞化の論破はその前段に過ぎない。日本が新興アジアに出ることで、「徳を積む・夢を積む」方法を熱く語っている。(叢虎)


『空洞化のウソ――日本企業の「現地化」戦略』
松島大輔 著 講談社 刊(760円+税)

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