「旅する人」へのシンパシー

 ともに「旅する人」である写真家のロバート・キャパと沢木耕太郎。キャパに深い憧憬を抱く沢木が2013年に書いた『キャパの十字架』(文藝春秋)は、キャパの作品中、最も知られているであろう「崩れ落ちる兵士」にまつわる謎を深く掘り下げていく物語だった。これに対して、本書は世界中のキャパ作品の撮影地を訪ねて、沢木が同じような構図で撮った写真と並べた紀行である。

 キャパの実質的デビュー作であるトロツキーの演説を撮ったデンマークのコペンハーゲンを皮切りに、スペイン内戦の舞台となったバルセロナ、マドリード、アンダルシア、第二次世界大戦中に訪れたニューヨークやメキシコシティ、ロンドン、パリ、ノルマンディ、ライプツィヒ、そして日本。沢木は4年間の『文藝春秋』誌上での連載中、まさに世界を駆け巡った。キャパの足跡を追いかけながらも、訪問地での沢木の体験はあくまでも沢木一人のもの。その土地の日常を切り取って自分の物語にふくらませ、そこにキャパを乗せていく手腕は、これはもう、うなるしかないうまさだ。とくに印象的なのは、キャパがパートナーのゲルダ・タローを失った後、共和国軍に同行して入ったスペイン・テルエルとバルセロナ。キャパの写真と沢木の写真、さらにそこに添えられた物語は、「旅する人」へのシンパシーを強く感じさせる。

 キャパの人生と真実の姿を追うには、アレックス・カーショウ著『血とシャンパン ロバート・キャパ──その生涯と時代』(角川書店)を強く推したい。版元品切れだが、どこかで見かけたらぜひ手に取っていただきたい。(叢虎)


『キャパへの追走』
沢木耕太郎 著
文藝春秋 刊(1700円+税)