BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『無電柱革命』

2015/08/06 15:27

週刊BCN 2015年08月03日vol.1590掲載

電信柱が消えた風景

 昭和30年代、町なかに電信柱が林立し、電線が張り巡らされているのはごく普通の風景だった。しかし、いまや世界の主要国はもとより、アジアの新興国でも「無電柱化」が推進されている。日本はどうか。1986年から旧建設省(現国土交通省)の「電線類地中化計画」が進められてきた。しかし、国内で最も進んでいるとされる東京23区でさえ無電柱化率は7%、この29年間で3%から4ポイント向上しただけというお寒い状況にある。

 海外をみれば、ロンドン、パリは戦前から現在に至るまで無電柱化率100%。ニューヨークは1970年代の72%から40年間で83%へと着実に無電柱化を進めている。こと電柱に関する限り、日本は最も遅れている国といわれても仕方がない。この本の著者二人は、美観を損ねるだけでなく、大震災に直面したときに電柱がいかに危険なシロモノになるかを知るべきと警鐘を鳴らす。小池氏は主に無電柱化の法制化に向けた動きを報告し、松原氏は社会学者として無電柱化に関係する諸団体の意識や行動に焦点をあてている。

 日本で無電柱化が遅々として進まないのはなぜか。例えば、電気事業連合会は、「感電事故を防ぐには、電信柱に電線を張るほうが安全性が高い。電力の電線だけでなく、通信線、ガス、水道などがバラバラに動けば、工事のたびに掘り返したりして時間とコストに多大な負担が生じる」という。確かに一理はある。大きな障害が横たわっていることは承知のうえで、東京五輪の開催までには無電柱化をもっと進めてほしいと思う。(仁多)


『無電柱革命』
街の景観が一新し、安全性が高まる
小池百合子/松原隆一郎 著
PHP研究所社 刊(800円+税)
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