BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『タモリと戦後ニッポン』

2015/10/01 15:27

週刊BCN 2015年09月28日vol.1597掲載

稀代の芸人の半生が映す70年の時

 タモリこと森田一義は、1945年8月22日、終戦の一週間後に福岡市で生まれた。戦後70年は、タモリの半生でもある。彼と時間・空間をともにした人はもちろん、どこかですれ違っているはずの多くの人に目を向け、日本の戦後70年を振り返ることが本書の主題だ。大学進学率が急速に伸び、高等教育が大衆化していった時期、65年に大学に入学。世に出るきっかけをつかんだ72年は、沖縄返還、日中国交正常化など、戦後の日本が大きな転換期を迎えた年だ。76年からラジオの「オールナイトニッポン」でDJを務め、さらに全国放送のテレビ番組にレギュラー出演。そして82年、以後31年半続く「笑っていいとも!」が始まった──。

 76年生まれの著者が、タモリに直接インタビューすることなく、大量の資料を渉猟し、そのなかから本人の発言や時代を映し出す言葉を見つけて一冊の本に組み立てていくには、大変な根気と集中力を必要としただろう。ましてや袖振れ合った人々の発言を拾っていくのは、これはもう時間だけをかけてできる作業ではない。これが本書の最大の魅力だ。ほとんどの登場人物の名の後にカッコ書きで生年と没年を記しているのも、史料としての価値はもとより、70年という時の流れを感じさせる効果がある。駆け足が速すぎて、「タモリを軸に戦後70年の国民史を描く」という著者のもくろみは必ずしも成功しているとはいえないが、書評子のようにタモリの“芸”が81年のアルバム『タモリ3 戦後日本歌謡史』で終わっている人間にも、老境に入ったタモリの新たな“芸”を見てみたいという欲望をかき立てさせる力がある一冊だ。(叢虎)


『タモリと戦後ニッポン』
近藤正高 著
講談社 刊(920円+税)
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