デジタルと公共政策を巧みに結びつける

 「台湾のIT大臣」として有名なオードリー・タン氏の初めて自伝。プレジデント社編集部が3カ月にわたり延べ20時間余りのインタビューを通じて口述筆記したもので、タン氏自身の考え方が分かりやすく述べられている。

 蔡英文内閣に35歳の史上最年少で入閣。2020年のコロナ禍初期に発生したマスク不足に際して、リアルタイムでマスクの在庫が分かるようにし、混乱を最小限に抑えた人物として日本でも広く知られている。250ページを超える本書を読み進めると、こうしたデジタル技術を駆使した斬新な政策が偶然に出てきたものではないことがよく分かる。

 生粋のプログラマーであり、米シリコンバレーの起業家。一方、15歳で中学校を中退、性的マイノリティでもあるタン氏は、早くからデジタルは少数意見を公共政策に反映させるツールと見抜いていた。民主主義が「数の暴力」に陥りやすいと危惧される中、個人が自由に発言できるデジタル空間と公共政策をリンクさせることで、少数者や弱者を切り捨てることのない社会を実現できる。

 例えば、少子高齢化で若者はもはやマイノリティとなっており、圧倒的な高齢者の数の力による「シルバー民主主義」は、若者の政治離れ、無関心を引き起こす。デジタル空間は、そうした「若者」というマイノリティの声を拾い上げ、多数派と少数派のどちらにも配慮した政策に修正する力を内包している。タン氏のデジタル民主主義の考え方は、「デジタル庁」構想を進める日本にとってもよい刺激になるはずだ。(寶)
 


『オードリー・タン――デジタルとAIの未来を語る』
オードリー・タン 著
プレジデント社 刊(1800円+税)