出版業界の苦悩は深い

 新刊ではないが、今回は本書原作の映画が3月26日に公開されたばかりということで、2017年8月発刊の単行本が一昨年11月に文庫化されたこの小説を特例で取り上げる。

 表紙に使われている写真は、俳優・大泉洋の立ち姿。もともと映像化を視野に、彼が主人公を演じることを想定して書かれたというユニークな背景を持つ小説だ。

 読者にとってはイメージが限定されてしまうというデメリットもありそうだが、脳内で実在の俳優が動き回るのもまた楽しい読書の在り方と言えよう。実際に読んでみても、大泉洋が演じることを違和感なく想像できる描写がほとんどだったと感じる。

 “アフターデジタル”な世界でのビジネスを考えなければならない現代において、出版業界の苦悩は深い。メディア企業で働く人間としてどんな矜持を持つのか。廃刊のプレッシャーに晒された雑誌の編集長である主人公を中心に、登場人物それぞれの立場で異なる価値観が激しくぶつかり合う様はリアリティーがある。

 いずれにしても、デジタル時代のメディアビジネスにおいて「コンテンツの価値」にどう向き合い、流通させるのかは大きな課題だ。

 ちなみに映画はまだ見ていないが、あらすじをチェックしてみると、小説とは設定が異なる部分もかなりあるようだ。メディアミックスの成功例になるかという点も注目したい。(霹)
 


『騙し絵の牙(文庫)』
塩田武士 著
KADOKAWA 刊(792円)