BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『日本の動物絵画史』

2024/02/09 09:00

週刊BCN 2024年02月05日vol.2001掲載

謎が多い作品

 本書は日本の動物を描いた絵画の歴史を古代から近代までたどった一冊だ。仏教思想が根付いた日本では、動物も人と同じ命を持つという教えから、動物に敬意を示し、長い歴史の中で描くべき対象として取り上げてきたとされる。

 動物絵画の中でよく知られた作品に「鳥獣人物戯画」がある。カエルやウサギ、猫をデフォルメし、人間のように相撲などで遊ぶ様子を描いた作品で、漫画のルーツとも言われる動物絵画だ。しかし、いまだに多くの謎を抱えており、成立時期は詳しいことが分かっておらず、一部は平安時代後期に描かれたと推測されている。作者も不詳で、複数人で描かれた痕跡が見られるだけとある。

 不明な部分はまだあり、参照したと思われる手本が定かではない。近世以前は実物の観察ではなく、先人の絵を模倣する中で作品を制作するのが一般的だったが、この作品の先例は見つかっていない。ただ、奈良時代ごろの落書きに、似た絵柄のカエルやウサギが複数見つかっている。この時期にはすでに動物をデフォルメしイラスト化する、なんらかの文化が存在したことは想像でき、こうした文化から鳥獣人物戯画が生まれたと思われる。もしかすると、現代漫画の先祖にあたるような文化だったのかもしれない。(石)
 


『日本の動物絵画史』
金子信久 著
NHK出版 刊 1485円(税込)
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