BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『「声」の言語学入門 私たちはいかに話し、歌うのか』

2025/05/23 09:00

週刊BCN 2025年05月19日vol.2059掲載

話すことが楽しくなる

 現代社会は対面での会話が減り、メールやチャットといった文字ベースのコミュニケーションが増えている。便利な半面、相手の表情が見えなくなった。スマートフォンでのメッセージのやり取りは相手の感情を読み取れず、返事を考え込んで気疲れすることもしばしばだ。

 文字だけのコミュニケーションでは分からない多くの情報が、対面や電話で相手の声を聞くことで得られる。本書は声や話し方にまつわる出来事を言語学、とりわけ著者が専門とする音声学の観点から分析し、それらを明示する。例えば、ある俳優の舞台演劇のセリフと日常的な発声を周波数や唇の動かし方で比較し、演技では感情がどのように表現されるかを解説している。俳優のほかにも歌手、ラッパー、アナウンサーら声の表現を追求するプロフェッショナルの事例を紹介。彼らの声を通して、音声が単なる情報伝達の手段にとどまらず、感情を共有し、人間関係をより深く結びつけるための重要なツールであることを改めて認識させられる。

 読みながら実際に発話したり、自身の肺の動きを意識したり、体を使って体験する一冊。「話す」という行為への興味が湧き上がるような魅力的な知識が詰まっている。話すことが楽しくなる内容だ。(潤)
 


『「声」の言語学入門 私たちはいかに話し、歌うのか』
川原繁人 著 
NHK出版 刊 1133円(税込)
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