店頭流通

デジカメと二人三脚で新規需要開拓 インクジェットプリンタ各社の販売戦略とは

2002/10/21 16:51

週刊BCN 2002年10月21日vol.962掲載

 インクジェットプリンタメーカー各社が、新規需要の獲得に本腰を入れ始めた。エプソン販売、キヤノン販売、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)の3社はこれまで、家庭で写真が出力できるデジタルフォト市場を創出する戦略に取り組み、パソコンに依存しない新しいマーケットの開拓に注力してきた。今年はさらに、デジタルカメラの売れ行きが好調である点を捉え、デジタルフォトの用途を一段と訴求。パソコン未所有の消費者をターゲットにインクジェットプリンタを提案していく。これは、パソコンの周辺機器というポジションを打破する新たな挑戦でもある。(佐相彰彦●取材/文)

「パソコンなしでも使えるぞ!」

家庭での写真出力
消費者への認知がカギ

 インクジェットプリンタメーカー各社は、これまで掲げていた「パソコンだけに依存しないインクジェットプリンタ」戦略をさらに本格展開することで、新規需要の開拓を図る。今年の年末商戦に向けては、デジタルカメラの好調を追い風に、家庭で写真を出力できる「デジタルフォト」の訴求に本腰を入れる構えだ。

 エプソン販売では、全国500店舗で、解像度2倍・速度2倍を実現したカラリオ・プリンタ最上位モデル「PM-970C」を目玉に、インクジェットプリンタの実演コーナーを設置した。実演コーナーで写真出力の利便性を実際に体験してもらうことで、「デジタルフォト」を訴求する。

 エプソン販売の白石吉昭・専務取締役は、「インクジェットプリンタの買い替えユーザーは、既存製品よりも機能性のよいものを求めるのが当然。まずは、2倍を武器に買い替え需要の囲い込みを図る」と話す。広告では、俳優の西村雅彦さんとタレントの優香のお馴染みコンビで「2倍」をアピールする。

 その一方で、1週間ごとの販売データを工場に伝え、売れ筋製品を迅速に出荷する体制を強化。新しい市場を開拓する専門部隊を10月中に組織化し、製品企画と販売も強化する計画だ。

 白石専務は、「新しいマーケットを創出するためには、全社的な組織化を図ることが重要と判断した」と述べる。

 キヤノン販売では、10月から今年末まで、全国600店舗でプリンタとデジカメ、スキャナを活用したデモコーナーを設置。デジタルカメラの「イクシーデジタル」の購入者5万人にデジカメ撮影の活用本を無料で配布することや、プリンタ購入者にマニュアルビデオを配布するなどの取り組みも行う。

 キヤノン販売の芦澤光二・取締役電子機器販売事業部長は、「消費者への訴求として『ハッピー・フォト・スタイル』というメッセージを打ち出した。これは、デジカメでの撮影やプリンタでの写真出力、スキャナで昔の写真をデジタル化することが簡単にできることを消費者に認知させる狙い。このメッセージを消費者に浸透することができれば、デジタルフォト市場が確実に拡大する」とし、「デジタルフォト市場は、01年に約7200億円規模となる。05年には、1兆円規模まで拡大するだろう」と分析する。

 広告では、母親が子供のサッカーの試合に出場したシーンをデジタルカメラで撮影し、会社から帰宅する父親に写真をいち早くみせようと、ダイレクトフォトを活用して印刷する、といった身近な用途などを消費者に伝える方針。写真家・立木義浩氏を起用し、写真家も納得する画質であることをアピールすることでプロシューマにもアプローチをかける。

 日本HPは、ワールドワイドでプリンタ事業をコンシューマビジネスの中核としてシェア拡大に注力しており、開発で150億円、マーケティングで240億円、設備で1080億円の投資を計画する。

 滝澤敦・コンシューマ事業統括本部長兼コンシューマ営業本部長は、「国内では、電車の中吊りやポスターなどでブランド認知度の向上を図る。日本におけるコンシューマ市場のシェアが少ないため、まずは、インクジェットプリンタの基盤を固める」としている。 

シェア拡大の決め手はノンPCユーザーの開拓

 図は、インクジェットプリンタ市場の前年同月比推移(BCNランキング)。これをみても分かるように、台数・金額ともに前年割れを続けている。この要因としては、「低迷するパソコンの周辺機器という位置づけが強く、その流れに引きずられているから」との見方が強い。「インクジェットプリンタは成熟市場でもある。そのため、単に年賀状が作成できるという位置づけを打破しなければ、前年を超えることは難しい」と指摘する流通関係者も少なくない。

 「パソコンに依存した周辺機器」だけでは、インクジェットプリンタ市場も縮小傾向を続けることにつながる。

 エプソン販売の白石専務は、「銀塩カメラと同等もしくはそれ以上の画質で、なおかつ簡単でなければ家庭での写真出力は浸透しない。そのため、パソコンを介さないデジタルカメラからのダイレクトプリントがカギを握る」と述べる。

 キヤノン販売の芦澤取締役は、「『撮る・つなぐ・すぐ写真』と、とにかく簡単に使いこなしたいというデジカメダイレクトニーズが広がりつつある。パソコンをもたずにインクジェットプリンタを購入する消費者の比率は、全体の10%を占める。この比率をいかに伸ばしていくかが重要だ」と指摘する。

 滝澤コンシューマ事業統括本部長兼コンシューマ営業本部長は、「インクジェットプリンタは、購入者の80%が買い替え需要。画質を追求することに加え、機能性が豊富にあった方がニーズが高い」と話す。

 このため、同社ではプリンタとスキャナ、コピー、デジカメダイレクトなどの機能を搭載した複合機で買い替え需要を促進する。「インクジェットプリンタは、これまで単機能プリンタが主流だった。だが、年末商戦に向け、複合機を中心にした棚配置をショップに提案する」としている。

 各社のインクジェットプリンタのラインアップは、エプソンが8機種、キヤノンが6機種、日本HPが5機種。各社とも、年末商戦でシェア争奪戦への準備を整えた。

 シェアは、エプソン販売が55%以上、キヤノン販売が50%、日本HPが10%弱を見込む。前年同期比では、エプソン販売が10%弱、キヤノン販売が2ケタの伸び、日本HPが前年並みとしている。

 今年の年末商戦は、デジカメ市場がさらに拡大することが予想される。従って、デジタルフォトを浸透させ、いかにインクジェットプリンタ市場を拡げられるかがカギになりそうだ。
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