店頭流通

無線タグ実証実験 新ビジネスモデルへ期待高まる

2003/05/12 16:51

週刊BCN 2003年05月12日vol.989掲載

 家電業界の物流において、ICチップなどを組み込んだ無線タグが、業務効率化で威力を発揮しそうだ。経済産業省の主導のもと、家電メーカーや物流会社が参加した「商品情報無線タグの家電製品広域物流における効率化寄与の調査研究、実証」により、一定の条件を満たせば無線タグの実用が可能という報告が固まり、物流の作業時間が2分の1程度に短縮できることが明らかになった。また、家電メーカー11社が参加した「商品情報無線タグ読み取り実証実験」では、無線タグの貼付位置などで読み取り率に変化が生じたものの、実用化に向けての解決の糸口が把握できたという。今年度中には、新しいビジネスモデル構築への取り組みが始まる可能性も出てきた。

物流の効率化に貢献

 物流実証実験では、家電量販店を中心に物流から販売における現状の把握と、無線タグ貼付時における運用の課題や期待効果を調査した。

 実施地域は中国と九州の2か所。中国地区ではデオデオと松下ロジスティクス、九州地区ではベスト電器と三洋電機ロジスティクスが実証実験に参加した。

 実験の内容は、ローラーコンベアによる折りたたみ式収納ボックス(オリコン)の読み込みや、パレットに梱包商品を積んだ状態でフォークリフトによるゲートアンテナ通過の読み込みなど。オリコンと梱包商品の外側に無線タグを貼付した。

 結果は、個別の読み取りであれば分速30メートルのコンベア上で30センチメートルの距離から100%可能だった。パレットに積んだ梱包商品のマルチリード(複数商品の一括読み取り)については、40センチメートルの距離から読み取りを行ったところ、12バイトのデータ量(12アイテムの商品タグシリアルナンバーに相当)が時速10キロメートルで走るフォークリフトで100%、128バイトのデータ量の場合は時速1キロメートルで100%となった。

 課題は、データ量が少なければ、フォークリフフトを通常の業務と同等に走らせることが可能だが、データ量が多くなれば、止まる程度の速度にしなければ読め取れないという点だ。

 経済産業省の萬井正俊・商務情報政策局情報通信機器課課長補佐(軽電産業担当)は、「物流の効率化を図るという点では、12アイテムのシリアルナンバーに加え、年月日を入れる程度であるため、データ量が大きくなったとしても30バイトにはならない」と説明する。

 さらに、「物流面で無線タグを実用化すれば、従来の作業時間と比較して約2分の1程度に短縮できる。課題を踏まえても、『一定の条件であれば無線タグは実用化のステージに到達した』ということで意見が固まった」と強調する。

 物流実験と並行して実施された家電メーカー11社参加の「商品情報無線タグ読み取り実証実験」では、商品単品や商品梱包時などでの読み取り距離や指向性、家電製品ごとの最適な貼付位置、プラスチックやダンボールなどの梱包材料や梱包形態などを検証した。

 結果は、商品単品であれば読み取り距離で60センチメートル以上を達成。梱包時でも、リモコンやケーブル、アダプターなどの付属品を入れなければ、商品単体並みの結果となった。

 だが、こちらも課題は残る。遮断性が高い金属性の付属品を同梱した場合には読み取れない問題や、商品単体でも、大型製品なら読める角度でも中型製品や小型製品では読めないケースが出てきている。

 読み取り実証実験にオブサーバーとして参加した東芝の宮下正・社会ネットワークインフラ社システムコンポーネンツ事業部システムコンポーネンツ企画部企画・業務担当参事は、「課題を把握できたこと自体が実証実験の大きな成果」と、指摘する。

 無線タグが実用化されれば、出荷情報や販売情報などをリアルタイムで把握できる。リサイクルにおける機器履歴管理などにも役立つ。無線タグを活用した新しいサービスが出てくる可能性もある。萬井課長補佐も、「今年度中に無線タグを活用した新しいビジネスモデルを構築する段階に進む可能性もある」との見通しを示す。
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