米Microsoft(マイクロソフト)が新世代のPCとして打ち出している「Copilot+ PC」。AIを多用するタスクに適応したプロセッサーを備え、より高度なAI体験を提供できる機種と位置付けられており、メーカー各社はラインアップの拡充を急ぐ。10月に「Windows 10」のサポート終了(EOS)が控える中、PC市場の牽引役としての期待がかかる一方、価格面やAIの効果が未知数といった懸念材料から、初動段階では盛り上がりに欠ける面も否めない。果たして、Copilot+ PCは市場の起爆剤となりうるのか。日本マイクロソフトとメーカー7社の最新動向から現在地を探る。
(取材・文/大畑直悠、堀 茜、大向琴音、藤岡 堯、岩田晃久)
Copilot+ PCとは?
米マイクロソフトが2024年に発表した新しいAI PCのカテゴリー。最低スペックとして1秒あたり40兆回の演算が可能な40TOPS以上の性能を持つNPUを備えたプロセッサーを搭載する。具体的には米AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)の「Ryzen AI 300」シリーズや米Intel(インテル)の「Core Ultra 200V」シリーズ、米Qualcomm(クアルコム)の「Snapdragon X」などが該当する。また、16GB以上のDDR5/LPDDR5メモリー、256GB以上のフラッシュストレージなども最低要件に設定されている。
マイクロソフトが提供するさまざまなAI機能をローカルで実行できるのが特徴で、リアルタイム字幕作成機能の「Live Captions」や画像生成機能「Cocreator」、ユーザーのWindows上での行動をスナップショットとして記録する「Recall」といった機能を備える。
ローカルで実行できるSLM(小規模言語モデル)の「Phi Silica(ファイシリカ)」やAI OCR、AIイメージングなどを搭載しており、これらの機能はアプリケーションの開発環境である「Windows App SDK」に含まれるローカル推論用のAPIセット「Windows Copilot Runtime」を通じて呼び出せる。アプリケーション開発者はこれらを活用して、独自のAIアプリを構築できる。
日本マイクロソフト
顧客に個別最適化したAIアプリ構築に期待
日本マイクロソフト業務執行役員の小澤拓史・デバイスパートナーセールス事業本部事業本部長は、Copilot+ PCについて「最大の特徴はNPUを搭載していることだが、そもそも、これまでで最も高性能で、最もセキュリティー水準が高い『Windows 11』のPCだ。バッテリー性能などを他社製品と比べても優れており、5年前のWindows搭載PCと比較しても5倍以上のパフォーマンスを誇る」と説明する。セキュリティー面では、CPUに内蔵されるセキュリティープロセッサー「Microsoft Pluton」の採用で、ハードウェアレベルでの安全性向上などを実現しているとアピール。AI機能を活用する上で前提条件となるパフォーマンスやセキュリティーを確保しているという。
日本マイクロソフト
小澤拓史 業務執行役員
SLMで広がる可能性
小澤業務執行役員は「生成AIの活用はクラウドを中心に広がってきたが、クラウドとやり取りする際のレイテンシーやコストの問題、社内規定でデータをクラウドに上げられずAIを活用できないといった点を踏まえ、エッジ側に最適なAIワークロードを実行する選択肢が生まれる」と説明。その上で「例えインターネットがつながっていない環境であっても、あらゆる場所でAIがユーザーを支援する世界になる」と展望する。NPUを搭載した既存のAI PCに対する優位性について、小澤業務執行役員は「Copilot+ PCでしかできないAI体験を実現する。NPUだけではなくSLM(小規模言語モデル)を搭載していることでPCの新たな可能性を生み出す」と強調する。
Copilot+ PCで可能になるAIアプリの具体的なユースケースとして、すでにマイクロソフトによっていくつかの機能が一般提供されている。先述のLive CaptionsやCocreator、画面上に表示された情報を認識し、文章の要約や画像加工などができる「Click to Do」などを搭載しており、AI機能は今後も拡充していく予定だ。
中でも目玉とする機能は、4月25日(米国時間)に一般提供を開始したRecall。ユーザーがWindows上で操作する画面のスナップショットを記録し、そこから必要な情報を探し出せる。検索はタイムラインのスクロールやキーワードの入力で可能だ。小澤業務執行役員は「PCを長時間利用する全ての人の業務効率化に資するものだ」と強調し、Recallによって先進的なクリエイターだけではなくあらゆるユーザー層に対してCopilot+ PCの価値を訴求する構えだ。
ユーザーの行動をスナップショットとして記録することに対するプライバシー保護の観点では、生体認証技術の「Windows Hello」でアクセスするほか、データを暗号化して管理者権限があっても中身を見られないように設定できる機能を備え、ユーザーが有効にしない限り、デフォルトでは無効になっているなどの配慮をした。また、Recallのデータはデバイス上でローカルに処理されるため、クラウドに送信されたり、マイクロソフトに共有されたりすることはないとしている。
Copilot+ PCの普及に向けては製品ラインアップの拡大が重要になるとする。小澤業務執行役員は「24年の発表時点では高価格帯のモデルが多く、ラインアップは限定的だった。一方で、現在は少しずつ裾野が広がっている段階。製品の拡充に応じて顧客のニーズをより満たす選択肢を生むことが重要だ」と話す。加えて、Windows 10のEOSに伴うリプレースもCopilot+ PC導入の契機になると期待を示す。
ローカル環境での活用に適したAI機能のユースケースの創出も普及のかぎになる。小澤業務執行役員は「40TOPS以上の性能を持つNPUやSLMを使ったキラーアプリを生み出せるかがCopilot+ PCの必要性を示すきっかけになる」と展望。生成AIを利用したビジネス変革の有効性を示した「ChatGPT」のようなアプリの開発を、ソフトウェアベンダーなどと協力しながら推進する構えだ。
汎用的なAIアプリの市場展開とともに、AIアプリの開発を支援するAPIセット「Windows Copilot Runtime」を活用し、各顧客に個別最適化されたAIアプリを実装できる点も訴求する。小澤業務執行役員は「Copilot+ PCを単に導入するだけではなく、企業のIT部門やSIerが、業務に沿ったAIアプリを開発して、ローカル環境で最適なワークロードを実行できるように支援してほしい」と呼び掛けた。
まずは認知の拡大図る
今後の販売促進策としては、まずはCopilot+ PCの認知拡大に取り組む。PCメーカー各社と共に展示会への出展や販売施策で連携を図っていく。小澤業務執行役員は「Copilot+ PCの発表から1年近くたち、認知も徐々に広がってきてはいる。これからは何ができるようになるのかという部分をより市場に訴えていきたい」と意気込む。また、「当社の強みの一つはエコシステムだ。われわれだけではなく、パートナー各社にCopilot+ PCの可能性や選択肢を提供してもらいたい」と呼び掛ける。
レノボ・ジャパン
充実したラインアップに強み
レノボ・ジャパンは、Copilot+ PCにおける自社製品の強みについて、充実したラインアップを挙げる。ビジネス向けのみでも、12シリーズ以上の対応機種を展開し、13型モバイルノートから大画面の16型までを幅広く発表しており「多様化する働き方に合わせた、最適な1台を選んでいただけるべく、開発を進めている」とする。
「ThinkPad X1 Carbon Gen 13 Aura Edition」
その中で推薦する機種は「ThinkPad X1 Carbon Gen 13 Aura Edition」だ。インテルの「Core Ultra」プロセッサー(シリーズ2)を搭載し、14型でありつつ、重さは最軽量構成時で986グラムに抑えた。ユーザー側で交換可能な57ワット時の大容量バッテリーを備え、堅牢性やキーボードの打鍵感にもこだわっている。
販売パートナーに向けては、先述した「業界最大級のラインアップ」から、Copilot+ PCを含め、パートナーがエンドユーザーのニーズに応じた製品を選定できるよう、セミナーなどを通じて広く情報を発信している。Copilot+ PCについては、効果的な訴求方法をパートナーとのディスカッションを通じて検討し、エンドユーザーがメリットを実感しやすいメッセージを届けられるよう取り組んでいるとする。
EOSを踏まえた今後の展望としては「お客様がPCを調達する上で、3年、4年、場合によっては5年先のユースケースに想像を巡らせると、『次の当たり前』として、Copilot+ PCにスポットライトが当たると確信している」と見通す。
日本HP
「AI Companion」を搭載
日本HPが展開するCopilot+ PCには、独自のAI機能となる「HP AI Companion」が搭載されている。質問回答機能「検出(Discover)」、複数ドキュメントを分析する機能「分析(Analyze)」、PC最適化機能 「最適化(Perform)」をワンストップかつ無料で提供する。今夏にはローカルAIや音声コマンド機能も提供される。
「HP EliteBook X G1i 14」
同社が薦める機種は「HP EliteBook X G1i 14」。1.2キログラム未満の軽量筐体に14型の画面を備える。AIによる覗き見の検知でプライバシーを保護できる「HP Sure View 5」などハイブリッドワークを支援する多彩な機能を備えるほか、オプションで5年間容量無制限のLTE/5G 通信サービス「HP eSIM Connect」に対応する。
法人向けの販促施策では、AI機能を訴求するコンテンツの拡充を進めるほか、PoCプログラムやWindows 11のマスターイメージ作成支援といったサービスを無償提供。販売パートナーに対しても、全国各地でイベントを開催し、訴求している。
Copilot+ PCは従来、ハイエンド中心の製品構成だったが、5月には同社が「メインストリーム製品」と呼ぶ「HP EliteBook 8」シリーズでの展開も開始する。「PCは通常4~5年使用する企業が多く、どのデバイスを導入するかは今後の生産性にも大きく関わる」とした上で、製品やサービスの拡充を継続し「多様化するお客様の働き方を支援する」考えだ。
デル・テクノロジーズ
複数業種での導入が進む
デル・テクノロジーズのCopilot+ PCは製造業をはじめとする多様な業種への導入が進んでおり、ユーザーからはAIワークロードのローカル処理化による「省電力性」を実感する声が寄せられているという。販売パートナーの関心も高く、直近で開催したセミナーでは過去最大の参加者数を記録。「ローカルAI機能をいち早く活用できることへの期待も高まっている」とみる。
「Dell Pro 13 Premium」
法人向けの施策では、ショールームでの体験会や、東京都内各所でのデモンストレーションに加え、短期貸出プログラムを通じた実機評価の支援など、多彩な販促施策を展開している。
同社のCopilot+ PCの特長に「Teams」や「Zoom」などでの会議中に活躍する「コラボレーションタッチパッド」がある。タッチパッド上部にミュートやカメラのオン/オフ、画面共有といった機能を直感的に操作できるアイコンを配置し、好評を得ているという。
おすすめの機種としては「Dell Pro 13 Premium」を挙げる。モジュラー型USB Type-Cポートの採用により、故障時に端子部分単体の交換が可能で、保守性に優れる。
EOSを控えたリプレース需要の高まりを見据え、「今後数年間の急速な変化に対応するための最適な投資として、Copilot+ PCを選んでいただくことには合理性がある」としつつ、価格面での懸念も少なくないことから「さまざまな施策や提案活動を通じて、価値を認識いただき、最適な投資判断ができるよう後押ししたい」とする。
Dynabook
四つの独自アプリで訴求
DynabookはCopilot+ PCの意義を「業務の効率化やデータ保護、イノベーションの推進に役立つ」と考えている。特に、AIを活用した生産性向上(データ分析、定型的な文書作成、同様の通信文やりとり、マニュアル作成、記事要約、分析、翻訳業務等)や業務上のコミュニケーションの円滑化といった効果が見込めるとする。
「dynabook X94」
4月には、同社初のCopilot+ PCとなる「dynabook X94」を発売した。インテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)と同社独自の「エンパワーテクノロジー」を搭載し、省電力かつ高速なローカルAI処理を実現。ローカル生成チャットボット「dynabook AI アシスタント」、ハンドサインによる操作「AIハンドコントロール」をはじめとする四つの独自アプリケーションも特徴的な要素だ。
法人向けの販促では、AI機能の理解促進を目的とした冊子制作やセミナー開催に加え、SNSを活用したマーケティング施策なども実施。市場での競争力を高め、販売パートナーが売りやすい環境を構築している。
同社はCopilot+ PCを「多様な業務を支援できる次世代のツール」と位置づける。Copilot+ PCなど、ハイパフォーマンスを発揮するIT機器の導入は、生産性向上により企業収益へ好影響を与えることから、「コスト対ベネフィット面では投資の回収が十分可能という見方もある」と普及に期待を寄せた。
サードウェーブ
「使いやすさ」で差別化図る
サードウェーブは「使いやすさ」を向上させる機能を差別化ポイントに、「Copilot+ PC」の販売を強化。AIを活用したDX推進を目指す企業からの引き合いが増えているという。
「THIRDWAVE F-14LN5LA-B法人モデル」
特徴的な独自要素として、最大180度まで開くヒンジと画面反転機能を挙げる。「Copilot+ PCのAI機能を活用して作成した資料を対面で共有する際、画面を相手側に向けてスムーズに説明できる」ため、対面でのコミュニケーションが円滑になるとする。今後はCopilot+ PCの機能である「Windows Studio Effects」を活用したオンライン会議が増えていくとみており、デュアルマイク付きフルHD Webカメラと非光沢ワイド液晶により、快適でストレスの少ないオンライン会議を実現できる点を訴求する。
同社は複数のCopilot+ PCを展開し、その中で注力機種とするのが14型の「THIRDWAVE F-14LN5LA-B法人モデル」だ。約950グラムと軽量でありながら、動画再生で最大約7時間のバッテリー駆動を実現。MIL規格に準拠した堅牢性を備えている。
IT市場では、常に新しいツールやサービスが登場しており、現在でもPCには高いタスク処理能力が求められるが、「今後はAI処理という新たなタスクがさらに加わることで、従来のプロセッサーでは処理能力の限界が見えてくる」と分析する。「そうした時代に先駆け、どこよりも早くインテルのCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)を搭載したPCを発売し、AI PCの先駆けとして役割を果たしたい」と力を込める。
マウスコンピューター
長時間駆動が可能
マウスコンピューターは、Copilot+ PCとして「MousePro G4-I7U01BK-E」を用意する。長時間のバッテリー駆動を前提に設計されており、アイドル時は約19時間、動画再生時は約6時間駆動する。筐体にマグネシウム合金を採用して、約946グラムと軽量化を実現。Wi-Fi 7への対応に加えて、カスタマイズによりeSIMと物理SIMに対応したLTEモジュールを追加できる。人物を検知して自動でロック・スリープ解除を行う「HPD(Human Presence Detection)機能」や、スタンバイ中の不意な起動を防ぐ「Restricted Standby」を搭載する。
MousePro G4-I7U01BK-E
今後については「EOSは単なるPCの買い替えの機会にとどまらず、AIを活用した業務改革を進めたい企業にとって、Copilot+ PCを導入する絶好のタイミングになる」との期待を示す。
エプソンダイレクト
6月ごろに初の機種を投入
エプソンダイレクトは6月ごろに初のCopilot+ PC機種を投入する。市場環境については「AIには関心が高く、活用への期待感はあるが、(AI PCを)自らの業務と具体的に紐づけて検討しているケースはまだ少ない」とみる。
6月ごろに投入予定の新機種
(開発途中であるため、外観は今後変更となる可能性あり)
新機種の提案対象は「オフィス用途」と「業務用途」の2領域で、AIを業務に取り入れ、競争力を維持・強化したいとのニーズに応える。画像生成による販促ツールなどの内製化やプログラミング業務といった活用を想定。製造業や医療といった専門用途への展開も視野に入れる。A4サイズで16型ディスプレイ、インテルCore Ultraプロセッサー(シリーズ2)を搭載する。
拡販に向けては、実機を試用できるプログラムを検討する。現行PCの入れ替え費用にプラスするかたちでAIを試せる仕様と、本格導入できる仕様を用意し「お客様の段階に合わせた製品を提供したい」という。