フォーティネットジャパンは、次世代ファイアウォール「FortiGate」を多くの中小企業に導入するなどして成長を遂げてきた。2023年7月にトップに就任した与沢和紀社長は、新たな顧客セグメントの開拓や、幅広い製品ポートフォリオを生かした統合管理によるセキュリティー対策の強化などに取り組み成長を加速させていく考えだ。企業のDX推進をサイバー攻撃で止めないため、セキュリティーから日本のDXをサポートしていく。
(取材・文/岩田晃久 写真/大星直輝)
顧客セグメントの拡大に取り組む
――長くセキュリティーに携わっていますが、フォーティネットにはどういった印象を持たれていましたか。
私がサイバーセキュリティーに携わるようになってすぐに、ケン・ジー(フォーティネットのケン・ジー会長兼CEO)と知り合う機会がありました。彼ととても気が合い、良い関係を築けたことで、社長就任の声がかかりました。
これまでのキャリアの中で、フォーティネットの競合製品も数多く扱ってきましたが、(フォーティネットは)とても素直な会社だという印象があり、事業に対する姿勢や方向性に同意できたことが社長就任の理由です。
――社長就任後はどのようなことを強化されてきたのでしょうか。
当社は、FortiGateが多くの中小企業で利用されており、高いシェアを誇ります。しかし、FortiGateだけでは、今後、2桁成長を望めないタイミングが来ます。そのため、まずは顧客セグメントの拡大に取り組んでおり、官公庁、病院、教育、そして大手企業のお客様に当社製品を利用してもらえるよう営業を強化しています。
また、FortiGate以外にも、エンドポイントやクラウド、OTなどさまざまな環境向けのセキュリティー製品、スイッチ製品、さらにセキュリティーサービスなど、50以上のポートフォリオがあります。ここまでそろえている競合他社はいないと思いますので、これらの製品をお客様に提案していくことで、十分に成長できる余地があると見ています。
――組織の強みはどういった部分になりますか。
外資系企業らしく、営業やマーケティング、SEのほぼ全員が入社前に他社で経験を積んでおり、豊富な知識があります。セキュリティー以外の業界から転職してきた社員も飲み込みが早い。複雑で説明が大変な製品群のため、今日説明をして、来週に受注できるわけではありませんし、特に大手企業や官公庁になると導入までにかなりの時間を要しますが、社員が頑張ってくれているので、確実に導入が進み、勢いがついてきています。
――与沢社長のキャリアでは初の外資系企業になります。働き方に変化はありますか。
そこまで大きくは変わっていません。前職は大手企業でしたので、社内プロセスや法的な考え方が分かっているため、(大手企業の顧客に対して)親近感を持って話すことができます。加えて、さまざまなセキュリティーベンダーの製品を扱ってきたので、「あの会社の製品は非常に良いものですが、運用が難しいですよね」といった話をすると、非常に盛り上がります。
私は、最初に製品の売り込みはしません。大手を中心に国内企業のDXへの取り組みが進んでいるので、セキュリティーに限定せずに何に困っているのかを聞くようにしています。そういったかたちで話をしていると、例えば、A社とB社の製品を組み合わせて実現していることを、当社なら単独で実現できるといった面を分かってもらえるなど、互いの理解を深めることができます。サイバー攻撃を100%止めるとは間違っても申し上げられませんが、攻撃された際に、とにかく短時間で気づいて、被害を発生させない、発生しても最小限で抑えるのが重要です。当社の多くの製品を活用して、国内企業のDXの取り組みをサポートしていきたいですね。
OSが共通の製品群とAI活用を訴求
――サイバー攻撃の傾向はどう分析されますか。
以前のサイバー攻撃は、攻撃者が技術を競う面がありましたが、現在はランサムウェア攻撃が大半で、“ビジネス”の要素が強い印象です。攻撃には複雑なツールが使われていますし、フィッシングによりさまざまな情報を窃取することで、攻撃を開始するまでの時間も短くなっているため、守る側はどんどん大変になっています。攻撃が進化していく中で、守る側はツールと技術を進化させるのと、発想を変えていく必要があります。
――セキュリティー対策では、統合管理のニーズが高まっている印象を受けます。
これまで多くの企業は、(対策の領域ごとに最適なソリューションを選択する)“ベストオブブリード”の観点でセキュリティー製品を導入してきましたが、マネジメントやモニタリングが大変で、MSSP(マネージドセキュリティサービスプロバイダー)にかなりの部分を委託しなければならない面があります。そのため、ベストオブブリードを追求していくよりも、利用する製品を絞って、統合管理していくという動きが出てきています。
当社の製品には、独自OSの「FortiOS」が搭載されており、一元管理が可能です。FortiOSの最新版では、統合管理コンソール「FortiManager」とログの詳細分析などを行う「FortiAnalyzer」において、大規模言語モデルが活用できるようになりました。日本語に対応しており、さまざま質問に回答するため、運用が楽になります。統一されたコンセンプトによる製品とAIの活用という点をこれから訴求していきたいですね。
――パートナー戦略について教えてください。
FortiGateを販売するだけにとどまっているパートナーが少なくないため、そういったパートナーがさまざまな製品を提案できるように変えていく必要があります。当社では、パートナー向けのセミナーやウェビナー、勉強会の開催などの支援を行っています。そこで知識を吸収して、中堅から大手企業に販売できるパートナーは、お客様の課題を解決するバリューセリングの発想に変えていただくと、中長期的な売り上げにつながるはずです。実際に、この数カ月で意識を変えて製品を勉強していただくパートナーが出てきています。
パートナー戦略では、MSSPとの関係強化にも注力しています。セキュリティー製品は特に、大手MSSPが運用を行うかどうかが、お客様の購入に大きく影響します。例えば、大手MSSPの場合、関連会社が営業活動を行うケースがありますが、MSSPが運用に対応していないためその製品が売れないといったケースもありますので、大手MSSPとフレンドリーな関係を築いていきたいですね。また、マネージドサービスの一つとしてセキュリティー製品の運用をしているパートナーもいます。そういったパートナーには、先ほど述べたFortiManagerとFortiAnalyzerによるAIの活用をサービスに使うことで、業務を効率化できることをアピールしていきます。
ネットワークとセキュリティーを融合
――23年12月の事業戦略発表で、「ネットワークとセキュリティーの融合」を戦略の一つとして挙げられましたが、どういった意味合いがあるのでしょうか。
当社は、ネットワークを強化することを目的につくられた会社であり、昨年からケン・ジーが改めてその部分を強調しています。DXをはじめ何をやるにもネットワークが重要ですが、セキュリティーをおろそかにしてしまうと痛い目に遭います。そのため、ネットワークはネットワーク機器、セキュリティーはセキュリティー機器という考え方ではなく、統合することで、ネットワークにエンドポイントを接続した際に防御と検知を行うというコンセプトが大切になります。
――その部分では、21年に買収したアラクサラネットワークスとの取り組みが重要になりそうですね。
アラクサラネットワークスはハイエンド向けのスイッチ製品を、当社は中小企業向けのスイッチとアクセスポイントを提供してきました。両社の製品を統合することで、セキュアネットワーキングのコアをつくることができるというのが買収の意図です。両社による研究開発は進んでおり、今後は両社の知見やノウハウが融合したスイッチ製品を提供します。将来的には、アラクサラネットワークスの製品も、当社製品の一員となりコントロールできるようになります。
一方で、企業文化と処遇の融合はとても大変です。両社の社員が一緒になって良かったと思ってもらえるように進めていきたいと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
パリ五輪が盛り上がりを見せている。3年前に開催された東京五輪では、NTTがゴールドパートナーとして通信サービスの提供とサイバーセキュリティーの対応を行った。グループ総出で開催を支援する中、与沢社長はセキュリティーの責任者を務めたという。そのプレッシャーの大きさは相当なものだったと想像できる。大会期間中には、多くのサイバー攻撃が確認されたが、守り切り無事に大会を終えた。
サイバーセキュリティーの仕事を「簡単ではないが、やりがいがあり重要な職務だと感じている」。責任のある立場でさまざまな場面を経験してきたからこそ、その言葉には説得力があった。
NTTのグループ企業から外資系企業のフォーティネットジャパンの社長に就任したのは、大きなキャリアチェンジだ。社長になり1年が経過したが、これまで培った経験やノウハウを生かし、新たな環境で手腕を発揮、成果が出てきている。今後、同社がどういった成長曲線を描いていくのかを楽しみにしたい。
プロフィール
与沢和紀
(よざわ かずのり)
1979年、日本電信電話公社(現NTT)に入社し、研究開発やネットワーク計画業務などに従事。97年、米NTT America(NTTアメリカ)の副社長に就任。2009年からNTTコミュニケーションズで複数のサイバーセキュリティー企業の買収をけん引。16年、NTTセキュリティ・ジャパンの代表取締役社長に就任。18年からNTTセキュリティの最高技術責任者として脅威インテリジェンスの高度化、AI検知技術開発などに注力。その後、NTTセキュリティホールディングスの代表取締役社長に就任。23年7月から現職。千葉大学にて電子工学の学士号、米スタンフォード大学大学院にて経営修士号を取得。
会社紹介
【フォーティネットジャパン】セキュリティー製品大手である米Fortinet(フォーティネット)の日本法人として2003年2月に設立。次世代ファイアウォール「FortiGate」は中小企業からエンタープライズまで多くの企業が利用している。現在は、FortiGateに加えエンドポイントセキュリティーやSASE、SD-WANなど幅広いソリューションを展開。従業員数は381人(24年1月時点)。