大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>55.シャープの片山社長がみせた「弱気」の理由

2007/07/02 18:44

週刊BCN 2007年07月02日vol.1193掲載

 シャープの2006年度連結決算は、売上高、営業利益、経常利益、純利益ともに4年連続で過去最高となった。だが、片山幹雄社長が打ち出した新たな施策に対しては、「慎重」あるいは「弱気」といった声が出ている。

■戦うための準備が先決

 もともと片山社長の施策は、常に強気という印象があった。液晶パネルの新工場建設、新工場で生産するパネルサイズの決定については、慎重派の町田勝彦会長に対して、強硬派の片山社長という図式で議論が進められていたことは、関係者が認める事実だ。しかし、片山社長は成長の原動力といえる液晶テレビ事業の施策には、かなり慎重な姿勢で臨んでいるようだ。

 シャープは今年初め、全世界における液晶テレビの市場規模を6800万台と予想していた。だが、先頃、これを7200万台へと上方修正した。にもかかわらず、自社の出荷計画は、年初に打ち出した900万台を据え置いた。

 しかも、片山社長は、「世界の液晶テレビ需要は、08年度、09年度も上ブレするだろう。年間1億台への到達時期は早まるはずだ。東欧、ブラジル、東南アジアなどでも、予想以上に勢いがついており、他社が打ち出す強気の見通しも決して間違ってはいない」と語る。これらのコメントは、むしろ、片山社長の慎重ぶりを際だたせるものだといっていい。

 それにしても、シャープはなぜ慎重な姿勢を崩さないのか。

 片山社長は、「確かに、記者やアナリストから弱気という指摘は聞いている」と前置きしながらも、「弱気になったのではない。いまは戦うための準備が先決だと判断している」と反論する。

 シャープの液晶テレビ事業の成長を担うのは、海外戦略である。同社の液晶テレビの事業計画をみても、07年度の年間出荷計画900万台のうち、海外の出荷計画は580万台と、約3分の2を占める。

 「市場の拡大にあわせて、日本から液晶テレビを輸出するという方法もある。だが、それでは物流コストが膨れ上がり、しかも在庫が発生しやすい。ビジネスとしては大変危険な構造となる。リスクが大きく、とてもこの手法を選択するわけにはいかない」との判断が働いている。

 液晶テレビを欧米に輸出した場合、1台あたりのコストは約1万円。船便では、欧州で約2か月、米国では約1か月半のリードタイムを要する。市場競争が激しい液晶テレビ市場では、十分に戦える体制とはいえないのだ。

■世界で戦う体制を整える

 今年7月には、メキシコ工場およびポーランド工場において、北米市場、欧州市場向けにそれぞれ液晶モジュールの組み立て、液晶テレビ生産を行う体制を確立する。これによって、世界で戦う体制がいよいよ整うともいえる。また、北米市場向けには、量販店、地域店向けなど、同じインチサイズでも4種類以上の製品をラインアップし、チャネル別戦略を展開できる体制も敷いた。

 「欧米で戦える製品・販売体制を敷いても、全世界900万台の出荷がいいところ。戦う以上は、ちゃんとした体制をつくってから臨みたい」と片山社長は語る。

 弱気の姿勢は、すぐに強気に変わりそうだ。
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