企業のデジタル変革やAI活用が加速するのに伴い、Kubernetesの活用も急速に拡大している。しかし、運用の複雑化や人材不足といった課題も同時に顕在化しており、多くの企業が効率的な運用方法を模索している。こうした状況において、SIerやNIerがどのように顧客を支援し、自らのビジネスを拡大していけるのか。ニュータニックス・ジャパンのマーケティング本部 シニア・プロダクトマーケティング・マネージャーの三好哲生氏と、Japanソリューションアーキテクトチーム アドバイザリーソリューションアーキテクトの町田修一氏に、Kubernetes運用の課題と解決の方向性について聞いた。
日本企業の100%近くがKubernetesを活用
ニュータニックスでは第三者機関に委託した調査の結果をもとに、年次レポート「Enterprise Cloud Index」を公表している。それによると、調査対象となった日本企業100社のほぼ100%が何らかのかたちでKubernetesを利用していることが判明。これまで広まっていた「日本はKubernetesが普及していない」という見方を覆すものとなった。
日本においてKubernetesの普及をけん引しているのは生成AIだ。三好氏は、「生成AI周りのアプリケーションはコンテナで配布されており、おのずとKubernetesをクラウド環境で使い始めたケースが少なくない。今後、生成AIを本格展開する状況で、重要な情報が保持されているオンプレミス環境でKubernetesを使いたいというニーズが増加するだろう」と説明する。
ニュータニックス・ジャパン
マーケティング本部
シニア・プロダクトマーケティング・マネージャー
三好哲生氏
また、町田氏は、「DXの文脈で新しくつくるアプリケーションについては、開発やメンテナンスの効率がよいKubernetesが浸透してきている。近い将来、これに引っ張られるかたちで、従来のエンタープライズアプリやパッケージアプリもKubernetes対応が進んでいくだろう」と予測する。
こうした傾向から、Kubernetesは今後さらに浸透すると思われるが、同時に新たな課題に直面する企業が増えることも懸念される。
4カ月に1回のバージョンアップが運用負荷を増大
Kubernetes導入の主な動機は、その即時性と利便性にある。しかし、本格的な実務に組み込む段階になると、Kubernetes自体のライフサイクル管理が大きな課題となってくる。
「現在、Kubernetesは約4ヶ月に1回バージョンアップされ、サポート期間は最長でも1年半程度となっている。Kubernetes クラスタ自体の新バージョンへの変更作業 は自動化ツールを活用してシンプルにすることができても 、その上にあるアプリケーションの動作を担保するための分析や対応が必要となる」と三好氏は話す。ネットワークやストレージ周辺のツール群についても、互換性確認が必要だ。「優れたオープンソースゆえに補助ツールが数多く提供されているが、気に入って使っていたツールが突然利用できなくなるケースもある」と指摘する。
さらに、従来とはトラブルシューティングの方法が大きく異なる点も運用を難しくする背景にある。町田氏は「障害に人間が対応するのではなく、ソフトウェアでできるだけ自動対応するというSRE(サイト信頼性エンジニアリング)の考え方がある」とし、「Kubernetesをよく理解した人でなければ、今何が起きているのかを把握するのも難しい」と指摘する。
ニュータニックス・ジャパン
Japanソリューションアーキテクトチーム
アドバイザリーソリューションアーキテクト
町田修一氏
一方で、人材不足やスキル不足は深刻だ。三好氏は「Kubernetesや自動化は、優秀なエンジニアによって推進されるが、そのスキルセットを持った人材が同時に育成されるとは限らない。スキルが上がるとすぐに転職する時代背景もあり、Kubernetes環境が維持できなくなるリスクがある」とする。また、Kubernetesはこの10年程度で出てきた新しいテクノロジーであり、キャリアの長い技術者であってもリスキリングが必要になる点も課題の一つだ。
エンドユーザーとSIerの間に横たわる課題意識のギャップ
こうした運用課題に対して、エンドユーザー企業とSIerの間には認識のギャップが存在する。「エンドユーザーは、これまでパートナーに開発から構築、運用まで全てを委託しているケースが多い。Kubernetesの真価が十分に認識されず、開発速度の向上や運用負荷の軽減といった漠然とした理解に留まっていることもある」と町田氏は話す。そのため、新しい技術を導入しながらも、安定性、ガバナンス、コストに関しては従来と同等の水準を求めがちだという。
こうした要求に応えるためにSIer側は、人の介在を余儀なくされメンテナンスコストは高止まりとなる。対応のスピードアップも限定的となり、エンドユーザー側から「クラウドに移行したのに思ったほどコストが下がっていない」「期待していたKubernetesのメリットが見られない」といった不満の声が出る一因となっている。
マルチクラウドのライフサイクル管理負荷を軽減する「Nutanix Kubernetes Platform」
Kubernetesの運用負荷を下げるためには、どのような設計思想や運用の考え方を持つべきだろうか。ニュータニックスの答えは、同社が提供する製品ポートフォリオから見て取れる。Nutanix Kubernetes Platform(NKP)のベースになっているのは、同社が買収したD2iQ(旧名:Mesosphere)によって培われてきた、Twitter(現 X)やAirbnbなどの大規模なシステムや企業の急成長を支えるアプリケーションプラットフォームを簡単に運用・管理する仕組みである。グローバルでテストを実施し、互換性を保ちながらアップグレードができるようにする考え方と、コンテナ技術を主導するCloud Native Computing Foundation(CNCF)による安定したプロジェクトをパッケージングして、バージョンアップが自動でできるようにするという特徴を備える。
Nutanix Kubernetes Platform(NKP)はマルチクラウドのライフサイクル管理負荷を軽減する統合基盤だ
三好氏は「構成が複雑になるマルチクラウドを大前提とし、TwitterやAirbnbで鍛えられ日々の運用がいかに楽になるかを考えてツールをつくっている。何らかの理由で急にクラウド環境を移行しなければならない場合やその逆も想定している」とする。また、「Kubernetesのバージョンアップに際してユーザーが持たなければならない責任の境界まで含めて、ライフサイクルを管理している」ということだ。
他のKubernetes基盤やマネージドサービスとの違いについて、三好氏は「NKPのパッケージに含まれているKubernetesはオープンソースのものを一切変えていない。その上で、ライフサイクルコントロールを行い、KubernetesのベースとなるOSや周辺ツールの互換性も担保している。マネージドサービスはあくまでKubernetesしか見ないが、われわれは周辺まで含めて、日々の運用が楽になることを担保している、またEKSやAKSのようなマネージドK8sサービスにNKPの運用のメリットを被せて利用する事もできる」と語る。
町田氏も「少人数でも大規模なクラスター群を安全に自動更新できる。Kubernetesエコシステムのバージョンアップを放置し続けた結果、差分が大きくなりバージョンアップが 難しくなるという状況を防止できる」とする。
運用工数50%削減事例も確認 エアギャップ環境のセキュリティー強化にも有効
実際にNKP を導入した企業では、どのような成果を得ているのか。ある金融系企業では、2000を超えるサービスを顧客に展開する基盤として活用している。vSphereなどさまざまな環境の中でコンテナ基盤を運用する、大規模かつ複雑な環境だが、「初期のクラスター環境をつくるところから、ライフサイクル管理も含めて、運用の工数を50%以上削減した事例もある」と町田氏は説明する。
防衛分野では、ネットワークが遮断されたエアギャップ環境で、Kubernetes環境の構築・設定作業を大幅に効率化したケースがある。通常、このような環境では、多数の環境設定手順などが複雑になりがちだが、煩雑さを解消しKubernetes環境を多数立ち上げる工数を大幅に削減した。
三好氏は「インターネットから切り離されているはずなのに、なぜかランサムウェアに暗号化されてしまったという話もある。バージョンアップを怠らないことはセキュリティーの観点からも必要で、それが少ない負担で着実に行えるようになったという事例が最近増えている」と説明する。
パートナーの標準化と効率化を支援するプラットフォーム
Nutanix Kubernetes Platformの活用は、SIerやNIerにとってもメリットが少なくないと町田氏は語る。「人材不足の観点では、技術スキルセットを標準化して顧客に提供できる状況をつくりたい。ニュータニックスのKubernetes環境は、この標準化ニーズに応える設計となっている」(町田氏)。
また、ライフサイクル管理の仕組みも、共通化していることにより数が増えても同じように自動化できるため、基盤上で動作する各種ツール群もパッケージコンポーネントとして標準化された組み合わせとなり、使用方法や管理方法が統一される。「この標準化によって、SIerは顧客ごとに異なるスキルセットを必要とせず、統一されたスキルセットで複数の顧客に対応できるようになり、人材育成の効率化につながる」と町田氏は話す。技術者が交代する場合でも、「標準化された環境のおかげで引き継ぎが容易になり、特定の個人に依存する属人化のリスクも軽減可能だ」ということだ。
今後の展望について両氏は、AI技術の活用が人材問題の緩和に貢献すると見る。ニュータニックスでは、AIアシスタントがログ分析に基づいたアドバイスやトラブルシューティングの手順説明を行う機能を既に提供している。
町田氏はAIの進化により、クラウドネイティブのような複雑な技術領域に対する敷居も急速に低くなっていくだろうと 指摘する。経験の浅い技術者でも、やりたいことを曖昧に伝えるだけでAIが的確な回答やステップバイステップの手順を提示してくれるため、最初から詳細な知識がなくても、運用を通じても学習できるようになるのだ。
Kubernetes運用管理の負荷軽減に、Nutanix Kubernetes Platformを有効活用してほしいと語る二人
このようなAIによる支援は、段階的にスキルを習得しながら作業を進めることを可能にし、結果的にSIerの人材育成期間短縮に貢献する可能性を秘めている。「Kubernetesのバージョンアップにかかる負担をお手伝いできるNKP を、顧客から大きく依存されている日本のSIerやNIerには、特にうまく活用してもらいたいという思いが強い」と三好氏は述べ、「運用も含めて支援する中で、標準化によって効率的に価値を出していくためのツールとして使い倒していただきたい」と話す。