デジタルトレンド“今読み先読み”

デジカメのアフターマーケットに動き 撮った後の楽しみ方を提案

2011/03/10 16:51

週刊BCN 2011年03月07日vol.1373掲載

 デジタルカメラはフィルムカメラに比べ、フィルム残数を気にせずに気軽に撮影でき、現像する手間や費用もかからない。しかし、こうしたデジタルの恩恵の一方で、PCに画像を移して、眠らせたままにしてしまっているユーザーも多い。「写真を撮った後」のマーケットに対して、これまではプリンタメーカーが中心になって家庭でのプリント提案を行ってきたが、ここ1年ほどで、新たな動きが出てきている。

若者には新鮮
プリントする楽しみ

 ビックカメラが昨年12月に東京・池袋にオープンした小型の写真専門店「BIC PHOTO」。DPEやフォトブック制作サービスに加え、女性をターゲットにしたカメラストラップやケース、アルバム、装飾グッズなどを豊富に揃えている。久保智義・DPE事業部事業部長は、この店をオープンして、プリントを注文する若者たちの姿が多いことに気がついた。「彼らはプリントすることを新鮮に感じている。プリント需要が減っているといわれるが、それはフィルム世代の固定観念かもしれない」と話す。

「BIC PHOTO」はアルバムを飾るグッズを豊富に揃えてプリントの活用を提案

 カメラの主流が、フィルムからデジタルに移行して約10年。プリントしなければ写真を撮った意味がないというフィルムカメラを経験した世代にとって、撮った写真をすぐに見られるというのは画期的な進化だった。しかし、たくさん撮ったのはいいが、プリントせずに結局ストレージのなかに眠らせてしまう人も増えた。フィルム世代は、いつの間にかプリントすることを「特殊な楽しみ方」と思うようになったのかもしれない。

 逆に若者たちにとっては、プリントは新鮮に映ったようだ。「BIC PHOTO」が、フォトアルバムや装飾グッズを豊富に揃えたのは、プリントをデコレーションしてアルバムに綴じるなど、「プリントするとこんなことができる」という楽しみを提案することが目的。オープンから1か月で、予想の2倍以上のお客様が来店したという。「プリントしてみようかな」と思わせる店づくりが、新たな需要を掘り起こしているのだ。

ネットでの共有や注文がデジタルのメリット

 一方、デジタルならではのサービスとしてデジカメユーザーの心を掴みつつあるのが、オンラインストレージでの写真の保存・共有や、その写真をプリントやフォトブックに加工するサービスだ。

 一般ユーザー向けとして、08年5月にスタートしたリコーのオンラインストレージ「quanp(クオンプ)」は、デジカメで撮影した画像・動画データから文書など、さまざまなファイルの保存・共有のほか、写真プリントやフォトブックの注文ができる。ユーザーが最も活用しているのは、画像共有関連のサービスだ。1GBが無料で使えるコースと、10GBまたは100GBの有料コースがあるが、このうち無料コースは、ファイルの共有ができない。そのため、有料コースに移行する人が多いという。

 総合経営企画室新規事業開発センターCPS事業室の山路悦子氏によると、「会員数は右肩上がりに伸びている。10年6月にiPhoneアプリの提供を開始したとき、大きく増えた」という。公式ツイッターで、「iPhoneで撮った写真や動画をその場でアップできることなど、いろいろな利用シーンを紹介すると、ユーザーの反応がいい」と手応えを感じている。現在は、拡大するスマートフォンユーザーに対応するため、Android端末への対応を検討している。さらに、サイトでは、「会社員」「ママ」「学生」などの属性別の活用シーンを提案したり、サイトそのものの操作性を高めることに力を注いでいる。

 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が運営するオンラインサービス「Snapfish(スナップフィッシュ)」は、リコーの「quanp」とほぼ同時期の08年6月にオープン。写真プリントやフォトブックの注文など、写真関連のサービスに特化し、容量無制限/無料で画像を保存・共有できることが最大の特徴だ。昨年末の年賀状シーズンには、写真年賀状の受注が前年を大幅に上回ったという。家庭のインクジェットプリンタでつくっていた人々が、手間が省けるメリットやネット注文の利便性を感じていることを裏付けている。

 カシオ計算機は、写真を芸術的な作品にする画像変換ウェブサービス「イメージングスクエア」を2月4日にオープンした。会員登録だけで1GBの「マイアトリエ」に写真を保存して、絵画風に変換したり、アート加工を施すことができる。カシオ製デジカメのユーザーに限らず、すべてのデジカメユーザーに“つくる楽しみ”を訴求しているのだ。

「CP+2011」のカシオ計算機ブースで「イメージングスクエア」をアピール

 ここに挙げた各社の取り組みは、「写真を撮った後、どう楽しむか」という提案だ。プリントやフォトブックなどのアナログ的な提案が受け入れられている一方で、簡単に「共有」「注文」「加工」できるというデジタル時代ならでは利便性が受け入れられている。さまざまなデジカメ写真の活用提案でアフターマーケットが活気づけば、デジカメそのもののマーケットの需要を掘り起こすことができる好循環が生まれるだろう。(田沢理恵)
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