その他
2010年、移動体通信業界はこうなる 「覇権争い」から「新時代の夜明け」まで
2002/01/28 15:00
週刊BCN 2002年01月28日vol.926掲載
2010年、日本の移動体通信業界はどのような姿になっているのだろうか。通信キャリア、ISP、コンテンツホルダー、サービス・プロバイダなど、モバイルビジネスに携わるあらゆるプレイヤーたちにとって最も気になる話題でありながら、その解答を弾き出せる者はどこにもいない。市場規模(基本料金とトラフィック収入)だけで6兆円(2001年)を超すとされる規模に成長した移動体通信産業は、今後どのような姿で変貌していくのか。アクセンチュアと国際大学グローバル・コミュニケーション・センターが共同で発表した「3G/4Gに関する共同研究報告書」では少なくも4つのパターンが想定されている。(谷古宇浩司●取材/文)
「3G/4Gに関する共同研究報告書」
●第4世代のサービスを想定、事業者間の競争激化
この共同研究は、国際電気通信連合(ITU)を中心に規格化が進められている移動体通信の第4世代サービス(通称4G:正式呼称はSystem Beyond IMT-2000)の実用化が見込まれる2010年に向け、3G(第3世代サービス=IMT-2000)および3G以外(無線LANなど3G以外の無線技術を用いた有料通信サービス)の普及という観点から実施。想定される4つのシナリオを描き、それぞれが移動体通信業界に与えるインパクトや4Gの実現性/具体像を調査・分析している。
研究期間は01年10月から02年1月までの4か月間。4G導入直前における移動体通信トラフィックの市場規模を試算した。対象時期は2010年とし、対象とする市場は3Gおよび3G以外の有料通信サービスの基本料金とトラフィック収入(音声通話+データ通信)。
そもそも第4世代の移動通信システムとは何か。2010年という長いスパンの予測は非常に曖昧で、イメージすら湧きにくい。報告書を見る前にこの点を整理してみたい。
国内では総務省の情報通信審議会が4Gの基本コンセプト策定にあたっており、その基本コンセプトは、(1)光ファイバー並みの通信速度、(2)ソフトウェア無線の導入、(3)システムのオールIP化、(4)複数通信システムとのシームレスな接続――としている。そこから、広義の4Gと狭義の4Gが指摘される。広義の4Gとは、無線LANやITS、ブルートゥース、デジタル放送などを取り込んだ多様なシステムを融合する規格であり、狭義の4Gとは現在の携帯電話の発展形と定義される。
NTTドコモがFOMAのサービスを開始し、3G規格の普及が端緒についた現在、中・長期的視野で通信市場の状況を把握すると、屋内での静止した環境では3G以外が、全体では3Gおよびその発展形である3.5Gが勢力をもち、一部のユーザーが狭義の4Gを構外=広域において利用するというイメージが一般的かもしれない。
一方で、プレイヤーのサービス間競争は激化し、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)やNTT東西、エリクソン、MIS、WIS、スピードネットなど、3G以外の有料通信サービスで実証実験を行っている事業者が、NTTドコモ、au、J-フォンなどの既存事業者が展開する3G/3.5Gを侵食する可能性がある。それは、3G以外のシステムにおいて、ハンドオーバー(通信を行いながら基地局を切り換える動作)による携帯性の向上や、VoIPによる無線音声通話技術の普及が想定されるからでもある。
移動体通信によるシームレスなサービスとしては、アクセスネットワーク、ボイスサービス、データサービス、ネットワークデバイスの4つが考えられる。このようなサービスについて、事業者側ではNTTドコモ、au、J-フォンのような3G規格をそのまま継承するであろう既存事業者と、3G以外をサービスとして行うNTTコムやNTT東西、MISなどの新規参入事業やニフティ、MSN、IIJといったISPという“2大陣営対立の構図”ができあがってくる。
●4つのシナリオ、事業者の思惑次第?
今回の共同研究では、2010年までに3Gおよび3G以外の有料通信サービスがそれぞれどの程度普及するかという2点に基づき、4Gの実現形態を見通す4つのシナリオを描いている。
その結果、3Gがマスマーケットを支配し、3G以外はニッチ市場に徹する既存キャリア主導型の市場形成として「はてしない物語」と題されるシナリオが1番目に記述されている。
2番目は3Gがニッチ市場に後退し、3G以外もニッチ市場を狙わざるをえないという主導的事業者の存在しない「神話の終焉」。3番目は、3G、3G以外ともにマスマーケットで主導権を握ろうとせめぎあう「覇権争い」。最後の4番目は、3Gがニッチマーケットに後退し、3G以外がマスマーケットに参入するISP・新規参入事業者主導型の「新時代の夜明け」というシナリオである。
「はてしない物語」のシナリオでは、同研究は移動通信トラフィックの市場規模は、総ユーザー数の緩やかな増加に合わせて2010年に約9兆円にまで拡大すると予測する。
一方、「神話の終焉」はもっとも悲観的なシナリオだ。トラフィックの市場規模は2.2兆円にまで縮小。移動通信の世代進化は3Gでストップする。
「覇権争い」のシナリオでは、3G/3G以外の有料通信サービス事業者がともにマスユーザーを獲得すると想定した最も楽観的なシナリオで、トラフィックの市場規模は約9.7兆円にまで拡大する。
残る「新時代の夜明け」では、3G以外のサービス事業者が3G事業者を侵食。トラフィック市場規模は4.3兆円になると想定している。
これらのシナリオはもちろん予測で、まったく新しい別の可能性が出てこないとも限らない。試算自体を有料通信のトラフィック規模だけに限定しており、コンテンツサービスやECなどの付加価値変動要因も加味していない。
3G、3G以外のサービスを提供するそれぞれの事業者ごとに意見が異なるのはもちろんだ。既存事業者として最大手のNTTドコモでは、02年度までの同社の事業計画を示しており、国際ローミング、モバイルEC、ロケーション・インフォメーションなどのサービスが3G/3.5G上で活性化するとしている。
この共同研究に参加したアクセンチュアの程近智・通信業統括パートナは、「『覇権争い』か『新時代の夜明け』のいずれかのシナリオになるのが理想的だが、実際、変動要因が多く市場状況の見極めは非常に困難」とコメント。結局、「2010年、日本の移動体通信業界はどのような姿になっているのか?」、プレイヤーの誰もが気になるこの問いに、明確な答えは容易に下せないようだ。
2010年、日本の移動体通信業界はどのような姿になっているのだろうか。通信キャリア、ISP、コンテンツホルダー、サービス・プロバイダなど、モバイルビジネスに携わるあらゆるプレイヤーたちにとって最も気になる話題でありながら、その解答を弾き出せる者はどこにもいない。市場規模(基本料金とトラフィック収入)だけで6兆円(2001年)を超すとされる規模に成長した移動体通信産業は、今後どのような姿で変貌していくのか。アクセンチュアと国際大学グローバル・コミュニケーション・センターが共同で発表した「3G/4Gに関する共同研究報告書」では少なくも4つのパターンが想定されている。(谷古宇浩司●取材/文)
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