セキュリティソフトが急激な勢いで売れている。BCN総研の調べによると、昨年12月のセキュリティソフトの販売実績は対前年同月比で500％と、パソコン市場の低迷が叫ばれるなか、“異常”ともいえる伸び率を見せた。昨年夏以降、コンピュータウイルスが猛威を奮ったことで、企業、個人ユーザーのセキュリティ意識が高まったのが要因だ。ウイルスが悪質化し蔓延するなか、セキュリティソフト市場は今年も大幅な伸びを見せると予測されている。セキュリティソフトメーカーも新たな体制づくりに追われている。（大河原克行●取材／文）

届け出件数は過去最悪

　昨年11月中旬、都内の大手販売店では、ウイルス対策ソフトの購入が1人2本までに制限された。特価販売でもないのに、販売制限が実施されるのは異例中の異例だ。それだけ、ウイルス対策ソフトが人気を博し、品薄状況が続いていたのだ。

　シマンテックによると、昨年10-12月の3か月間の同社ウイルス対策ソフトの販売本数は40万本。前年同期比20倍という伸びを見せたという。「当初は、こんなに作って大丈夫かと心配したが、結果として物が足りない状況に陥った」と、シマンテックの成田明彦社長は、予想を上回る動きに驚きを隠さない。
　その背景には、昨年夏以降、悪質なウイルスが蔓延したことがあげられる。サーカム、ニムダ、コードレッド、バッドトランス、ゴナーと枚挙にいとまがない。なかには、添付ファイルを開かない限りウイルスに感染しないというこれまでの常識を覆し、ビューワにより一部内容を表示しただけ、あるいは感染したホームページを見ただけで被害を受けるという悪質なものも出てきた。

　情報処理振興事業協会（IPA）が発表した昨年12月のウイルス感染届け出件数は、3900件と過去最悪。2001年の年間届け出件数も前年の2倍となる2万4261件に上った。

　しかも、「この統計はあくまで自主的な届け出によるもの。実際にはこの1000倍規模のウイルス感染が出ているはず」（IPA関係者）と、その蔓延ぶりは想像以上だ。

ワクチン開発の時間短縮

　ウイルスの感染、被害を拡大している理由には、ウイルスそのものの悪質化と同時に、ブロードバンド環境の浸透があげられる。

　昨年12月末で150万件の加入者数を突破したADSLをはじめ、すでに100万件を突破しているCATVによるブロードバンド接続など、日本のブロードバンド環境は予想を上回る速度で進展している。
このブロードバンドおよび常時接続環境がウイルスに感染した途端に、すぐに次のパソコンへと飛び火するという事態を作り出し、ウイルス蔓延の速度を早める温床ともなっている。

　こうした動きにともなって、セキュリティソフトの開発環境も変化している。

　一部メーカーでは、ウイルス自動解析システムなどにより、95％のウイルスに対しワクチンソフトを自動生成できるようにした。短時間にウイルスが蔓延する状況下、ワクチンソフト開発の時間短縮は各社に共通した課題となっている。

　シマンテックの場合、コードレッド、ニムダの時には、発見からワクチン配布までに要した時間が4時間、ゴナーの場合には2時間に短縮された。

　「今年は2時間以内のワクチン開発が求められる。そうしなければ、ウイルスの被害を最小限に食い止めるのは不可能だ」（シマンテック・成田社長）という。

　ウイルスの予想以上の蔓延は、セキュリティソフトメーカーにも新たな課題を突きつけている。