日本アイ・ビー・エム(日本IBM、大歳卓麻社長)は、ISV(独立系ソフトベンダー)向けの支援を強化する。日本IBMは、データベースやウェブサーバーなどミドルウェアの分野で、マイクロソフトや日本オラクルなどのソフトベンダーと激しく競合している。ミドルウェアで優位に立つためには、ミドルウェア上で稼働する業務アプリケーションの品揃えの拡充が欠かせない。日本IBMでは、ISV向けのアプリケーション開発支援および販売支援を強化することで、ミドルウェアのシェア拡大を目指す。(安藤章司●取材/文)
有力企業のアプリケーション取り込み急ぐ
■データベースで追い上げるMS、日本IBMは「戦略的な協業」を推進 オープン化が進むなか、ハードベンダーにとってミドルウェアは他社ベンダーからのリプレースを防ぐ重要な“防壁”となっている。ミドルウェアのシェア拡大を進めることが市場での優位性に結びつく。
ミドルウェアの中核商材の1つであるデータベースソフトの2003年(1-12月)販売金額シェアは、ガートナーデータクエストの調べによると、日本IBMは、日本オラクルに次ぐ国内第2位のシェア20.6%を獲得した。だが、02年からの成長率で見ると、シェア4位のマイクロソフトが前年比16.6%増と2ケタ成長(シェアは14.9%)を達成しており、同2.1%減の日本IBMを追い上げている。
焦りを感じた日本IBMは、ISV支援策の大幅強化に乗り出した。日本IBMのミドルウェアに対応したアプリケーション開発を手がけるISVを支援するプログラム「ISVアドバンテージ・アグリーメント(ISV-AA)」の参加企業を、今年度(04年12月)末までに現在の15社から倍の30社に増やす。
ISV-AAに参加している企業は、販売管理システムなどを開発する内田洋行や、財務会計システムなどを手がけるエス・エス・ジェイ、人事給与などを得意とするワークスアプリケーションズなど、それぞれの得意分野で高いシェアを獲っている有力ISVであり、こうした有力ISVとの関係を、より一層強化する。
ISV-AAでは、有力ISVを狙い打ちする形で、「戦略的な協業」(日本IBMの三浦浩・ソフトウェア事業担当執行役員)関係を構築。ISVと共通の目標を設定し、この目標の達成を通じてIBM製ミドルウェアのシェア拡大を図る。
ISVが開発したアプリケーションソフトを日本IBMの販路に乗せて販売したり、マーケティング費用の一部を負担するなど販売面で協力する一方、ISVに対しては日本IBMのミドルウェアに対応したアプリケーションソフトの販売本数をコミットしてもらうなど、お互いの目標を共有する。
■J2EEの開発支援プログラムを用意、販売チャネルも大幅に強化 しかし、「共通目標」というコミットを設定するISV-AAでは、すでに実力のあるISVとの協業が前提となっており、将来成長が見込めるISVの育成という機能はそれほど強くない。このため、日本IBMでは、将来性のあるISVに向けて同社が主力に位置づけているJavaプラットフォーム「J2EE」を切り口とした開発支援プログラム「Javaにおける協業促進プログラム」(仮称)に新しく乗り出す。今年10月から本格的に立ち上げる予定だ。
具体的には、日本IBMが受注したJava関連のソフト開発案件の一部をJava技術者の育成を希望するISVと共同開発する。製造業や流通業、金融業など各業種をカバーできるよう、まずは40-50社から協業を始める。日本IBMがISVのJava技術者育成を体系立てて取り組むのは「今回が初めて」(三浦執行役員)となる。
 | | ISVからのコミット マイクロソフトが先行 | | | ミドルウェアのシェア拡大に欠かせないアプリケーションソフトを開発するISV(独立系ソフトベンダー)の取り込みは、マイクロソフトなどソフト専業ベンダーの方が一枚上手だ。 マイクロソフトは昨年10月に開発会社向けのコミュニティを立ち上げた。今年6月時点で参加ソフト開発会社は約2000社、参加技術者は約2900人。参加したISVの多くは、マイクロソフトの主力プラットフォーム「.NET」対応のアプリケーション開発をコミットしており、今年度(2005年6月期)までに累計600種類の.NET対応アプリケーションの開発が進む見通し。 しかし、ISVのなかには.NET一色になることにリスクを感じる動きもある。日本アイ・ビー・エム(日本IBM)が提案するJ2EE対応のアプリケーション開発に賛同するISVが増えているのも事実。こうした動きをどれだけ日本IBMのビジネススキームに取り込めるかがカギとなる。 | |
「Javaにおける協業促進プログラム」は、ソフト開発を通じて必要な知識や技術を習得させるOJT(オンザジョブトレーニング)方式のメニュー。日本IBM側、ISV側ともに品質を維持するため、ある程度の費用負担が発生する可能性はあるものの、「人材育成の期間中、収入がまったくゼロにはならない」(同)ため、OJT方式が広くISVに受け入れられると期待している。
同時に、多くのISVがターゲットとしている中堅・中小企業向けの販売チャネルも大幅に強化していく。日本IBMでは、中堅・中小企業向けの営業組織として、全国約20か所に地域のパートナー営業を担当する専任者「テリトリーパートナーマネージャー」を配置している。だが、昨年までは地域パートナー営業関連の売上高のうち、大半がハードウェアが占めており、「ISVと協業する仕組みがなかった」(日本IBMの藤本司郎・ゼネラル・ビジネス事業ソリューション営業本部本部長)。
このため、今年1月からこうしたハードウェア中心のパートナー営業を改め、新しく地域のISVとの連携や協業を進める「エコシステム・テリトリー・カバレージ・マップ」の作成に着手した。これは、ISV-AAに参加しているISVに加え、地域密着型で得意分野を持つISVや、ISV-AA未参加の有力ISVなどと積極的に協業を進めることで、中堅・中小企業向けのビジネスにおいてもIBM製ミドルウェアの徹底浸透を図ることを目的としている。
テリトリーパートナーマネージャーは、ハードウェアの販売成績が優秀でも、ISVとの協業による販売実績が低ければ、「高い評価が得られない」(同)仕組みに今年から改めた。
これら協業を進めるISVは「フォーカスISV」と呼ばれており、毎月1回、協業を強化すべきISVを決める選定会議を日本IBM社内で開催している。現在、フォーカスISVの数はおよそ全国60社ほど。毎月の選定会議を通じ常に最適なパートナーシップが組めるよう情報のアップデートを行っている。
ハードウェアの販売パートナー育成には実績のある日本IBMだが、ISVの育成や協業ではマイクロソフトや日本オラクルに遅れをとってきた感は否めない。一連のISV協業策を通じたミドルウェアのシェア拡大の成否は、日本IBMの中長期的な成長を大きく左右することになり、この点ではISV支援の強化は極めて重要な施策だと言える。