富士通のデスクトップパソコンの生産を担うのが、福島県に本拠を置く富士通アイソテック(福島県保原町、川勝匡紘社長)だ。国内生産にこだわる富士通の国内生産拠点の1つとして、年間120万台のデスクトップパソコンを生産するほか、IAサーバーやプリンタの生産も行う。なぜ、富士通は国内生産にこだわるのか。富士通アイソテックの取り組みを通じ、その狙いを追ってみた。(大河原克行(フリージャーナリスト)●取材/文)
■国内生産ならではの品質を維持
富士通の国内向けパソコンの生産体制は、ノートパソコンの生産を行う島根富士通(島根県斐川町)、デスクトップパソコンの生産を行う富士通アイソテックの2拠点体制となっている。
富士通アイソテックは、1957年設立の黒沢通信工業(東京都大田区)が前身。設立当初は、印刷電信機、電子計算機用端末機の開発・製造を行っていたが、その後、東京都稲城市に本社を移転し、データ通信用端末機器の量産工場へと転換。75年には福島へと生産拠点を移し、シリアルプリンタ、熱転写プリンタの量産工場となった。
同社がパソコンの生産を開始したのは95年。島根富士通で生産していた個人向けデスクトップパソコンの生産を移管。99年には企業向けデスクトップパソコン、01年にはIAサーバー、ワークステーションの生産を開始している。

現在では、東日本地区のパソコン修理拠点であり、また、ユーザー専用ホームページ「AzbyClub」で取り扱っている中古パソコンの再生も行っている。
ノートパソコンの場合、薄型、軽量化などを実現するために独自のマザーボードを採用しており、基板からの一貫生産による国内生産の強みが発揮しやすい。だが、デスクトップパソコンの場合は、標準的なマザーボードを使用しており、デスクトップパソコンを生産する富士通アイソテックは、国内生産の優位性を発揮しにくいともいえる。
その点に関して、富士通アイソテックの川勝社長は、次のように説明する。
「海外生産と同じ部品を使っていても、完成品には大きな品質の差が出る。そこに国内生産の強みを発揮できる」
同社では品質向上に向けて、使用する部品の徹底検証や生産段階における抜き取り検査のほか、エージングなどの全量検査を実施している。また、工場内にORT(オンゴーイングランニングテスト)と呼ばれる検査システムを導入。ここで40度Cの温度と、高い湿度環境の中で1週間の動作検査を行うといった品質テストが行われる。
また、同一敷地内に修理拠点を持っていることから、修理案件を検証することで、部品の品質などを分析。即座に開発や設計、部品調達、生産の改善へとつなげることも品質維持に一役買っている。
■デイリーオペレーションの試行開始
国内生産によるもう1つの特徴が、いち早い市場への製品供給体制の実現だ。
企業向けパソコンでは、現在3万種にのぼるBTO(注文生産方式)が可能で、これをいち早く組み上げて納品する体制を整えているのに加え、個人向けパソコンについても、富士通パーソナルズなどとの間で構築しているSCM(サプライチェーンマネジメント)によって、土日の販売状況をもとに、火曜日までに生産量を決定。それに合わせて生産を行い、金曜日までに販売店に納品し、週末に販売できる体制を整えている。
「1週間単位のサイクルでは、海外で生産し船便で流通していては間に合わない。しかし、飛行機による流通ではコストが高くなる。国内生産によるメリットは品質の高い製品を短納期で提供できる点にある」と川勝社長は話す。
午前10時までに注文があれば、午後5時までの間に生産し、当日中に出荷。関西までの範囲であれば、翌朝午前9時には納品できるという離れ業も可能になっている。
「部材調達は1週間単位での動きになっているが、7月からはデイリーオペレーションの試行を開始した。9月以降は、これを本格稼働させたい」と川勝社長は語る。
そして、今年8月には、地元の小中学生を対象にしたパソコン組み立て教室を初めて開催した。20組40人の親子が参加した特別イベントだが、これも国内生産ならではのイベントといえよう。
■コスト競争力への取り組みがカギに
もちろん、コスト面では海外生産との差があるのは確か。常に台湾、中国の生産拠点とのベンチマークを行い、コスト競争力でも負けない体制づくりに取り組んでいる。
「人件費が中国の15倍となる日本で、いかに日本ならではの優位性を出せるか。我々は製造のプロフェッショナルとしての自覚をもって、世界トップレベルの品質、納期、コストに挑む」と川勝社長は力を込める。
今年8月までの第1次生産革新運動では、生産性2倍、スペース半減、製造手番半減、着荷障害ゼロを目指して改善が進められてきた。9月からは第2次生産革新運動を開始しているが、ここでも生産性、スペース、製造手番、着荷障害は大きな課題だ。国内生産のメリットを生かしながら、いかにコスト競争力を追求するか。相反するテーマに同社はいま果敢に挑んでいる。