政府のIT戦略会議が検討している通称「e-文書法」の法制化をにらみ、ドキュメント管理に関連するソフトウェアやサービスを提供するITベンダーの動きが活発化している。e-文書法が施行されれば、紙ベースの保存しか認められていなかった税務関係文書などの電子文書化が認められるためだ。こうしたITベンダーは、企業にある紙文書の電子変換や電子文書の運用サービスだけでなく、内部情報漏えいを防ぐセキュリティ対策を付加したソリューションメニューを増やしている。ITベンダーの多くは、e-文書法が来年4月にも施行されそうなため、「その前に“かけ込み需要”がある」と見ている。(谷畑良胤●取材/文)
「e-文書法」法制化にらみ対応活発に
■各種文書の電子データ化が可能、企業は文書保管コスト削減に 政府の「IT戦略本部」が検討中の「e-文書法」は、紙ベースの保存しか認めてこなかった企業内の注文書や請求書などを、電子データで保存することを容認する法案。2005年4月の施行を目指し、国会で成立に向けた議論が始まっている。同法が施行されれば、企業では、紙文書保存に必要な倉庫代などのコスト削減が可能となる。これに伴い、紙文書を電子文書化して保存するドキュメント管理システムや、電子文書の情報管理に関するセキュリティ対策への需要が高まっている。オフィス機器ベンダーなどは、ドキュメント管理市場の拡大に期待を寄せている。
02年頃からドキュメント管理ソリューションを強化し始めたキヤノン販売によれば、「特に最近は、保存が義務付けられている紙文書を試行的に電子化して保存し、運用する企業が増えている」(上村高志・ビジネスプロダクト企画本部DS商品企画部iW商品企画課課長)と、e-文書法の施行に向けた企業の準備作業が活発化しているという。
キヤノン販売は02年4月、ドキュメント管理ソフト「イメージウェア」シリーズの新製品として、ネットワーク上の入出力機器と連携して紙文書と電子文書を一元管理できる「ドキュメントマネージャー」を出している。
最近では、このドキュメントマネージャーを補完するソフトとして同時期にリリースしたCRM(顧客情報管理)など企業の基幹システムと連携してドキュメント管理するソフト「ライブリンク」の需要が特に増えているという。「単に紙を電子化するだけでなく、電子文書の閲覧や共有、決裁、廃棄などのルールを決めて、社内で効率良く運用したいという企業が増えた」(上村課長)と、電子文書を業務フローに基づき運営するソリューション提案が多くなったと話す。
リコーテクノシステムズは、新日鉄ソリューションズと共同で昨年8月に提供を開始したASP型の大企業向け電子文書保存サービス「エヌエスエキスプレス・ドットコム」の一環で、今年8月から、社内に残存する紙文書を、保存の重要度に応じて保管のファイル形式を変えて電子文書化したり、紙文書のままの保存、廃棄などを支援するサービスを新たに開始した。
また、同社では、中堅・中小企業向けにも、電子文書などドキュメントの運用管理をサポートする「リドック・ドキュメント・システム」を提供しているが、これについてもe-文書法や個人情報保護法の施行をにらみ、改訂版を出す計画だ。
リコーテクノシステムズの清水泰子・ドキュメントサービス事業部ソリューションビジネス推進部コンサルティング第1グループグループリーダーは、「電子文書化によりコスト削減が図れても、改ざんや内部情報漏えいの危険に晒されやすくなると見る企業も少なくない。こうした不安を取り除く必要がある」と、ドキュメント管理市場が今後拡大するために、セキュリティ面を強化するシステム提案との連携は避けて通れないと説明する。
日立ソフトウェアエンジニアリングは今年6月、情報セキュリティソリューション「秘文」のコンセプトを見直した。情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)適合性評価制度に対応して、社内に存在する情報の運用、監視、見直しなどの仕組みを明確にして、情報漏えいを防止するための新製品を順次出していく計画だ。
e-文書法の施行を見越して日立ソフトウェアエンジニアリングは、今後、新しい秘文と自社やパートナーのドキュメント管理ソフトを組み合わせ、業種・業態別に体系化したソリューションを提供していく。「e-文書法や個人情報保護法の施行に向け、ドキュメント管理の“かけ込み需要”があると予測している」(石原繁樹・営業統括本部戦略ソリューション営業推進部秘文ビジネス推進グループプロジェクトマネージャー)と、来年4月スタートに対応するため、年末までにドキュメント管理の需要期が訪れると期待している。
■中堅ITベンダーも注目、ビジネスチャンス拡大に期待 大手ITベンダーだけでなく、中堅ITベンダーもドキュメント管理市場の拡大に注目し始めている。テンプレートソフトを開発し、パソコン量販店で販売しているジェイシーエヌランドは、ASP型の企業向け経営ドキュメント支援サービス「BC-BOX」の拡販を強化している。「大手ITベンダーのドキュメント管理ソリューションと違い、当社のサービスは、『継続利用』をテーマに中堅・中小企業でも簡単に扱えるようインターフェイスを工夫している」(北山哲也・専務取締役)と話す。
BC-BOXは今年4月の発売以来、10社程度に導入したが、電子文書化とドキュメント管理の導入に関しては、「大企業より、中堅・中小企業の方に需要がある。社内に紙文書が散在し、内部情報漏えいが心配で、文書を電子化して安全を保とうというニーズがある」(北山専務)と、同社はセキュリティ面のコンサルティングと合わせBC-BOXを拡販していく方針だ。
日本経済団体連合会の推計によると、e-文書法の施行により、保存が義務付けられていた上場企業の紙文書の保管コスト(倉庫代や管理費など)は、上場企業全体で約3000億円が削減できるという。そこで、企業の多くは、e-文書法の施行前に、ドキュメント管理のシステムを早めに構築しておこうとしているようだ。ドキュメント管理に関するソリューションやソフトを“売り”にするITベンダーにとっては、e-文書法の施行前に、ビジネスチャンスが広がっている。
 | | e-文書法 | | | e-文書法は、法令により企業に保存が義務付けられていた財務・税務関係書類などの文書・帳票のうち、電子データによる保存が認められていなかった紙文書の電子保存を容認しようとする法案。これにより、税務関係書類の9割以上は、電子文書保存できると試算しており、企業が取引先から受け取る小額領収書や請求書などの整理・保存が簡単になるという。 例えば、現在は、電子帳簿保存法により、税務関係書類をスキャナーで読み取り保存することは、「書類の改ざんを発見しにくい」との理由で、一部の帳簿を除き、電子保存が認められていなかった。しかし、企業側の紙文書保存コストが問題視されているほか、文書の電子化と電子保存は世界的な潮流となりつつあるため、政府や関係省庁で容認する動きが加速した。 | |