球団買収で“儲かる”イメージ定着
“勝ち組”、ネットバブル崩壊乗り越え巨大化
楽天のプロ野球参入により、世間では「ネット企業=儲かっている商売」というイメージが広まり、話題を集めている。2000年前後にネットバブルと呼ばれるインターネットビジネスへの期待が高まり、新しい企業が続々と誕生した。その後、市場環境は厳しくなったが、ライブドアや楽天などは着実に事業を拡大した。この2社以外にも、着実に売り上げを伸ばし、さらなる事業拡大期を迎えた企業が出てきている。(三浦優子●取材/文)
■IPOで資金を確保 企業買収で事業拡大 「やっぱり、ネットビジネスは儲かる!」──。こんなフレーズが週刊誌やテレビなどに頻繁に登場するようになった。ライブドア、楽天、ソフトバンクといったIT企業が相次いでプロ野球の球団買収に名乗りを上げたためだ。
いずれの企業も、買収を言い出す際には、「当社にはこれだけの資金力がある」とアピール。確かにそこで示される数字だけ見れば、“ネット企業=儲かっている”というイメージをもたれてしまうのも無理はない。
これだけネット企業に注目が集まるのは2000年前後のネットバブル期以来だろう。当時は新たな産業としてインターネット関連分野に注目が集まり、このビジネスは無限の可能性をもっていると見られていた。しかし注目度の高さに比べ実態は厳しく、多くの企業が撤退、廃業していった。
ライブドア、楽天はその中にあって生き残った企業だ。その要因はいくつかあるが、両社ともに株価が高い時期にIPO(新規株式公開)を行い市場から資金を調達。さらに他のネット企業が市場環境の悪化で減収となっていった時期に企業買収を行い、事業分野、企業規模を拡大していったことがあげられる。
今、改めてネットビジネスで生き残っている企業を見ると、プロ野球球団買収ほど派手な話題はないものの、着実にビジネスを拡大し、成長させてきたことがわかる。
ライブドア、楽天とともにネットビジネスを象徴する企業、ヤフー。同社が10月20日に発表した2005年3月期の中間決算では、売上高が前年同期比53.9%増となる509億7200万円、営業利益は同53.9%増の271億8900万円となった。ヤフーでは決算が好調である要因を、「インターネットの利用者が拡大し、ネットビジネスが好調に推移しているため」と説明している。この好調が下期も続けば、ネットビジネス専業の企業としては初めて、通期の売上高1000億円を超す企業となりそうだ。
サイバーエージェントは、11月15日に発表した04年9月期の連結決算で、通期で初めての黒字決算となった。売上高は前期比65.0%増の267億2800万円、営業利益は17億2600万円となっている。
ホスティング事業などを展開するグローバルメディアオンライン(GMO)が11月15日に発表した04年12月期の第3四半期の連結決算は、売上高は前年同期比39.5%増の160億2500万円、営業利益は同20.4%増の18億300万円となった。通期見通しについても、前期比43.5%増の225億円を見込むなど、大幅な増収増益を実現している。
■ネット広告やホスティングで地歩築く 今後はコンテンツの争いに 好調な売り上げを実現したネット企業は、いずれも新たな事業をスタートしたり、買収によって事業範囲を拡大することで売り上げを伸ばしている。
サイバーエージェントは、04年7月から9月までの3か月間だけで、女性向けショッピングサイト「girlsgate.com」を運営するディーバを100%子会社化し、出版事業を行うアメーバブックスを設立。さらに中国茶専門ショッピングサイト「pand@Leaf」を運営する運営トランスワークスを100%子会社化している。
 | | ネット企業にIPOブーム | | | IPO(新規株式公開)を行った企業数を見ると、これまでの最高は2000年の203社だった。それ以降、IPOを行う企業の数は減少傾向にあるものの、04年は久々に前年を上回る数の企業がIPOを行う見通しだ。 ネットビジネスを行う企業としては、11月2日にJASDAQに株式を公開したポータルサイトのエキサイト、11月30日にJASDAQに株式公開を行うネット証券のイートレード証券などがある。 04年になってIPOを行う企業が増加しているのは、昨年後半から株式市場が改善し、初値が公募価格を上回るケースが増えているためだと見られる。実際に昨年の9月から、今年9月までの1年間では、初値が公募価格を割り込むケースは1件もなかった。 | | |
GMOは、日本語キーワード検索の「JWord」をベースとした検索情報サービス「9199.jp(クイックジェイピー)」を9月からスタートし、テレビコマーシャルを含めた大規模なPR活動を展開している。
こうした動きについて、GMOの熊谷正寿会長兼社長は、「00年当時は、OSやパソコン、サーバーといった分野ではシェアをもった勝ち組企業が存在していた。だが、ISP(インターネットサービスプロバイダ)などのネットワーク、ホスティングなどの管理事業、インターネット広告などの分野では、勝ち組企業はなく、新規参入するチャンスがあった。しかし、こうした分野についても、売り上げ規模100億円以上、従業員数1000人規模の企業がシェアを獲得するようになってきた。そこで、まだ新規参入の余地があるコンテンツビジネスでの競争が本格化し始めた」と指摘する。
つまり、サイバーエージェントやGMOといった企業がインターネット広告、ホスティングなどの事業で着実な売り上げを獲得できるようになった結果、新たな企業を買収し、新規事業に進出するための動きを本格化したというわけだ。
楽天のプロ野球参入についても、日本で人気が高いスポーツの1つであるプロ野球というコンテンツを手に入れたという見方ができる。企業の宣伝という意味合いも大きいだろうが、楽天はプロ野球に参入したことで新たなコンテンツビジネスを展開する足がかりをつかんだとも考えられる。
着実に売り上げを増大させている企業が新たなビジネスを開始したという意味では、04年はネットビジネスを行う企業にとって、象徴的な年だったといえそうだ。
もっとも、これまで順調に売り上げを伸ばしてきたネット企業がこれまで通りに成長を続けられるとは限らない。特にコンテンツビジネスは、成長の可能性が大きい分野ではある一方で、課金の方法などが明確でないものも多い。勝ち組ネット企業であっても、これからが新たな試練の始まりとなりそうだ。