富士通のサーバーおよびストレージの生産拠点である富士通ITプロダクツ(FJIT、廣澤泰隆社長)は、日本海に面した石川県かほく市にある。PFU(広瀬勇二社長)の旧・笠島工場の拠点に、同工場の機能とともに、富士通沼津工場の上位サーバー製品の製造部門、富士通熊谷工場のプリント板ユニット製造部門、富士通長野工場のストレージの製造部門をそれぞれ移管して、2002年4月に設立された。ここから全世界に向けた富士通製サーバーの生産が行われており、来年度にも投入される予定の次世代IA基幹サーバーも同工場で生産される予定だ。工場の様子をレポートする。(大河原克行(ジャーナリスト)●取材/文)
サーバー事業の基幹生産拠点

■組み立てから検査まで一貫生産
富士通ITプロダクツでは、UNIXサーバー「PRIME POWER(プライムパワー)」を主力に、メインフレームであるグローバルサーバー「GSシリーズ」、マルチサーバー「PRIME FORCE(プライムフォース)」、ストレージ「ETERNUS(エターナス)」、ネットワークサーバー「IPCOM(アイピーコム)」といった製品群を生産。そのほか、約5分の位置にある木津工場では、イメージスキャナやプリンタの生産も行っている。富士通アイソテック(福島県保原町)で生産しているIAサーバー以外のサーバー製品すべてがここで生産されており、いわば同社プラットフォーム事業の基幹生産拠点の1つということになる。
同工場の特徴は、サーバーの心臓部となるMCM(マルチチップモジュール)の製造、マザーボードの生産、サーバーの組立から検査までの一貫生産体制をとっている点だ。
約10種類のMCMが月間1000枚の生産体制、SCM(シングルチップモジュール)では約40種類が同1万4000枚の生産体制となっている。生産されたMCMおよびSCMは、そのままマザーボードの生産ラインへと移行し、最大で40層の多層基板がつくられる。マザーボードの種類は1500種類にのぼり、多品種少量生産に対応したラインが構築されている。
■I字型のセル生産を採用
マザーボードは、自動化された機械による検査に加え、何度も目視による検査が行われる。さらに、クロックチューニングと呼ばれるCPUの効果を最大に発揮するための調整が行われる。
マザーボードが完成するとサーバーの生産ラインに移動。「プライムパワー」などは、I字型と呼ばれるセル生産方式によって生産される。I字型セル生産では、一定の作業を1人が行い、それが完了すると次の作業者へと移行する仕組み。作業者と作業者の間に「バッファ」というスペースを置き、そこに完成した製品を置き、次の作業者の手待ちがないようにしている。部品はライン横の部品ストアから、必要な量だけを必要なタイミングで供給する。
その後、大型サーバーはユーザーのシステム構成ごとに検査を行い、ユーザーのもとに供給されることになる。
一方、ストレージの「エターナス」は、検査工程の徹底ぶりが特徴だ。「試験を徹底すれば工数やコストが増えるが、それによって不良品率を削減した方が、トータルコストとしてはメリットがあると判断している」と、富士通ITプロダクツの廣澤社長は語る。ストレージが入庫した時点で、5度℃から37度℃のエージング検査を全量実施。その後、4コーナーマージン試験と呼ばれる電圧/温度組み合わせ試験、オン・オフ繰り返し試験、電圧マージン、温度マージン試験を行い、さらに48時間の高温検査。さらに、ユーザーごとのシステム構成とした後に、4コーナーマージン試験を繰り返す。
「これまでに出荷したエターナスではトラブルがない」というのも、製造手番の8割が試験・検査ともいうこうした厳しい検査を、生産段階で徹底して行っていることが挙げられる。
■05年度末までに品質を2倍
現在、同工場ではトヨタ式の生産革新に取り組んでいる。今年4月から2週間に1回のペースで講師を招き、経営陣から現場担当者までが受講し、工場全体の改革を進めている。その取り組みの1つが、工場の各フロアに張り出された流れ図だ。これらの流れ図は、すべてが手書きで描かれ、問題箇所には付せん紙で印がついている。それをもとにした生産フローの見直しを行っているのだ。
例えばMCMの生産ラインでは、これまで、すべての生産、試験工程を完了するのに1キロもの距離になっていた。これを改善によってわずか150メートルの距離に短縮できたという。同工場の目標は、05年度末までに今年4月の段階に比べて品質を2倍、製造手番で2分の1、棚卸し資産で2分の1、スペースで2分の1へと削減すること。この大きな目標に向けて、トヨタ式の改善活動を導入するわけだ。
もともと同工場では、「Idea POST」という仕組みを導入し、提案を行いやすい環境を作っている。手書きの専用シートをスキャナで読み込むと、それがデータベース化され、上長などに提出される仕組み。この導入効果は大きく、今年度上期だけで1万5909件の提案実績があった。こうした改善に挑む姿勢が根底にあることから、今後の目標達成に大きな威力を発揮するのは間違いない。
「毎日、工場の中が変化している」というように、改善の繰り返しが品質、コスト、短納期といった点で効果を発揮し、富士通のサーバー事業の成長を下支えしている。
