パートナーと一丸となって総力戦へ
PCサーバーは今年度も伸長の見込み
2005年、ハードベンダー各社は企業向け市場において引き続き堅調なIT投資が見込めると口を揃える。特に中堅・中小企業(SMB)市場での需要増が期待されることから、顧客の取り込みに向け、販売パートナーと一丸となった激しい総力戦があちこちで繰り広げられる見通しだ。(安藤章司●取材/文)
■NEC、特約店向け施策を強化 軸足はソリューション提案型の商談に ハードベンダーは、「今年も引き続き需要は伸びる」と強気の姿勢を崩さない。NECでは、今年(1-12月)の国内PCサーバーの出荷台数は前年比7%程度伸びると予測し、企業向けパソコンでも同5%程度伸びると強気の予測を立てる。2000年(Y2K)問題特需の買い替え需要のピークは04年度で一段落すると見られているが、企業市場におけるIT投資が堅調であることから、市場は引き続き伸びると見ている。
企業向けパソコン市場では、米IBMがパソコン事業を中国の聯想集団(レノボグループ)に売却することを受けて、NECは「日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は国内企業向けパソコン市場を手放したと受け止めている」(津田芳明・執行役員常務)とし、現在日本IBMが持つ約10%の国内シェアを積極的に獲りに行く姿勢を明確に打ち出す。
これに対して、日本IBMの堀田一芙・常務執行役員ゼネラル・ビジネス事業担当は、「パソコン事業を(向こう5年間は)継続するという意思を当社ほど明確に示しているベンダーは他にない」と、中国企業との提携という新たなビジネスモデルを柱に、パソコン事業の継続・拡大を強調する。レノボグループの強大な生産力を背景に、より強力なサプライチェーンを構築し、競争力を高める戦略だ。
PCサーバーや企業向けパソコンは、出荷台数ベースでは04年度(05年3月期)から05年度(06年3月期)にかけて明るい見通しが示されているものの、利幅は以前より厳しくなるのは間違いない。NECでは、より高い効率でPCサーバーやパソコンなどのプラットフォーム製品を顧客企業へ届けることを目的に、インターネットを活用したプル型の販売チャネルの拡充に力を入れる。
NECでは企業向けの直販サイト「得選街」を運営しているが、ここで使われているサプライチェーンエンジンを販売特約店で活用してもらうよう働きかける。現在約50社の特約店が同エンジンを使い、顧客先に出向くことなくプラットフォーム製品を供給できる仕組みを採用している。この仕組みの採用社数を05年度は2倍の100社に増やす。
こうしたインターネットを活用したプル型販売チャネルで販売するプラットフォーム製品は、販売台数全体のうち03年度は約5%を占めるに過ぎなかった。だが、04年度は10%程度に増え、05年度は特約店での利用が増えることから、さらに比率が高まる傾向にあるという。NECの津田常務は、「顧客先を訪問する時は、業務改善の提案などソリューションを基盤とした商談に軸足を置くべき。一方、プラットフォームの販売は極力コストを抑え、競争力を高める」と、一層のコスト競争力向上を特約店とともに推し進めていく考えを示す。
■「プル型市場の創出に努める」日本HP 富士通は「製品、市場、人材」 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は、高付加価値の製品とコモディティ(日用品)化した製品との2極化をさらに明確にする。コモディティ化した製品は、「プル型市場の創出に努める」(樋口泰行社長)と、世界最大手のパソコン・PCサーバーベンダーとしてのスケールメリットを生かした、コスト競争力を前面に出していく。同時に、「販売パートナーが、より顧客に密着できるよう、競争力の高い製品と高効率の供給体制を強化する」と、日本HPと組んだパートナーが本業のソリューションビジネスに専念できる支援体制を拡充させる。
富士通は、プラットフォーム製品の競争力向上に加えて、動作検証を済ませた業務アプリケーションの品揃え強化と、販売パートナーの人材育成に重点を置く。中村巧・経営執行役は、「今年のキーワードは製品、市場、人材の3つ」と、バランスのとれたパートナー施策を打つ。富士通製ハードウェアやミドルウェアとの動作検証を済ませた業務アプリケーションを提供しているISV(独立系ソフトウェアベンダー)やシステムインテグレータは現在10社余りだが、来年度は30社強に増やす。
動作検証を事前に済ませておくことで、導入効率のアップや業務アプリケーション同士の連携を強めるのが狙い。導入事例なども販売パートナー間で共有し、効率良くソリューションを展開できる体制を整備する。人材育成では、昨年10月から「トップセールス育成訓練」プログラムを開始。販売パートナーの営業担当者のスキルを高める訓練プログラムで、04年度は60人、05年度は累計200人のスキルアップを目指す。
 | | 買い替え特需が旺盛 | | | 2004年度(05年3月期)、PCサーバーの販売台数は2000年(Y2K)問題特需の買い替え需要が旺盛だったことから大幅に伸びる見通しだ。民間調査機関のMM総研では、04年度は前年度比18.6%の43万4400台に伸びると予測する。企業向けパソコンにおいても需要が堅調だったことから、台数ベースで2ケタ近い伸びが予測されている。 05年度(06年3月期)は、「PCサーバーは引き続き伸びる見込みだが、企業向けパソコンは横這いにとどまる可能性が否定できない」と、MM総研では予測する。 | | |
ハードベンダーにとって、05年度は出荷台数をどこまで伸ばせるのか勝負の年になる。Y2K問題特需の買い替え需要がピークを過ぎたなか、「PCサーバーは、UNIXサーバーからの置き換えによる追加購入や新規購入などの需要をどこまで掘り起こせるかがカギになる」(MM総研研究員の中村成希・ITプロダクツ研究グループ課長)と、販売パートナーの力を結集した総力戦が求められるからだ。
企業向けパソコンにおいても、「シェアの変動が予測」(中村課長)され、限られたパイを巡る争奪戦がより激化するものと見られる。PCサーバーやパソコンなどプラットフォーム製品は効率良く顧客の手元に届け、その上で投資対効果が見込めるソリューションを販売パートナーとともに的確に提供したベンダーがシェアを伸ばす。
日本IBMの堀田常務は、今年のキーワードに「ビッグ・チーム」を掲げる。組織の壁を打ち壊し、社内のリソースとビジネスパートナーのリソースを横断的に取りまとめて顧客に“価値”を提供できる柔軟的な組織づくりをするという意味だ。ハードベンダーとパートナーが一丸となった総力戦がより激化することは確実だ。