富士通那須工場(栃木県大田原市)は、携帯電話機(PDC、W-CDMA)、モバイルシステム関連、特殊機器の生産拠点として1980年4月に開設された。生産高は04年度(05年3月期)実績で3000億円を突破。「設立25周年の節目で、3000億円を突破し、生産革新に着手できた」(山下貴規・那須工場長)とし、のモバイルシステム製造ラインでは、03年度(04年3月期)から生産革新の取り組みを開始した。04年度下期にはトヨタ自動車流のカンバン方式の導入をほぼ終えている。(田澤理恵●取材/文)
高品質、短納期を達成
■基本は「徹底したムダの排除」 富士通のモバイルシステム市場への取り組みは、国内外ともに第3世代携帯電話へ注力している。国内では、NTTドコモ市場の拡大や、そのほか、イー・アクセスの商用システム参画などを積極的に進めている。
海外市場では、W-CDMAの欧州でのサービス本格化や中国での年内ライセンス付与などに向け事業を加速。同時に仏の電気通信システム・装置メーカーのアルカテルとのジョイントベンチャーにより、第2世代のGSMとW-CDMAの両機能に対応できる拡張性あるW-CDMA無線基地局装置に力を入れており、07年にはW-CDMA世界シェア15%を目指している。
現在、那須工場では、IMT2000関連システムの携帯電話端末、基地局装置、制御装置、交換システムなどを生産している。「基地局装置の月産台数は平均60台」(渡辺伸寿・ものづくり推進本部ネットワークローコスト推進統括部第二製造部長)だ。
こうしたモバイルビジネスの競争力の源泉となっているのが革新的な生産方式を採用した点。高品質、短納期での製品出荷のため、トヨタ生産方式による「ものづくり革新」に力を入れてきた。
生産革新の取り組みを開始したのは、03年度で、04年度から外部コンサルタントの指導を受けトヨタ生産方式を導入した。基本思想を「徹底したムダの排除」として、停滞を減らすための「ジャストインタイム」、人の仕事と機械の仕事の分離や工程段階で品質を造りこむ「自働化」の2本柱を徹底し、従業員にこの考え方を伝え、意識改革を行い日々改善を実践する人材を育てることに注力した。
■目標を1年前倒しでクリア 生産方式の転換により、04年度末の製造リードタイムは前年同期の61%に圧縮。工場棚卸資産の年末残高は12%圧縮し、保有日数も11%圧縮できた。当初05年までに掲げていた目標を04年度末に1年前倒しでクリアするほどで、「05年度はさらに成果を上げたい」(酒井雄一・ものづくり推進本部長)という。
PIU(プラグインユニット)のラインでは、ラインリーダーや作業員が現場で編み出した工夫が随所に生かされている。例えば、頻繁に使うはんだごてやドライバーなど工具類の収納も、現場ならではのアイデアで使いやすくセットされリードタイムの短縮につなげる努力がなされている。
現在、コンサルタントの指導とは別に2週間に1回現場を統括する渡辺第二製造部長がラインリーダーからの現場の声を聞いて改善に取り組んでいる。さらに、ラインリーダーが自発的に作業員全員の問題意識の共有化を目的にした指導会を実施するなど、全体の積極的な姿勢が奏功している。
■全ラインを「カンバン方式」に
04年5月31日から稼動を開始したPIU Aラインは、ラインの長さを従来の45メートルから12メートルに短縮。作業スペースを21%削減した。これにより従来のボード1枚あたりのリードタイム292分を75分に短縮。従来、月2000枚を生産していたPIUは、月8000枚の生産にも混乱することなく対応できているという。
04年7月14日からはPIU Bラインで初の2種混流ライン、8月3日からはPIU Cラインで1種量産効率ライン、9月18日からは15種混流ライン、05年2月21日からはPIU/装置一貫ラインを稼動させた。04年4月から05年3月までに、生産性で2.1倍、スペースで38%縮小という成果を上げた。
無線基地局シェルフ/架ラインでは、9種類のシェルフの混流、装置試験入試工程の統合が04年8月26日から、制御装置系シェルフ/架ラインではシェルフ、小物、22種混流ラインが12月24日から稼動し、こちらでは生産性1.9倍、スペースを48%縮小。装置試験では、基地局装置試験ラインが04年5月28日から、制御装置試験がラインが今年1月7日から稼動し、生産性1.8倍、スペースが44%縮小できた。
生産革新に向けた取り組み全体で、04年度末の製造リードタイムは前年同期の61%に圧縮できたほか、顧客からのオーダーから供給までのリードタイムは13.0日を3.0日に短縮。さらに基地局装置の棚卸保有日数で見ると、対前年比の約50%を実現している。
こうした効果を受けて、今年4月から別棟の携帯電話端末のラインでもカンバン方式に着手している。まだ未完成ではあるが、今年度上期中には全ラインをカンバン方式に移行していく予定という。
