セキュリティ需要の好調が後押し
ストックビジネス化がカギ
大手システムインテグレータ(SI)のITマネジメントサービスが堅調に伸びている。セキュリティ商材をITマネジメントサービスに組み込み、“ストックビジネス化”する動きが活発していることが拡大要因の1つと見られる。ITマネジメントサービスは粗利率が高いとされるだけに、今後どこまで伸ばせるかが収益力向上のカギとなりそうだ。(安藤章司●取材/文)
■4月以降「逆に熱を帯びている」の声、関連セミナーは毎回盛況 個人情報保護法の追い風も3月末で終わった──。セキュリティ特需に沸いた大手SIの間では“今年4月からは落ち着きを取り戻す”という見方が支配的だった。だが、フタを開けてみると4月、5月の2か月間で、「落ち着くどころか、逆に熱を帯びている」(大塚商会の佐藤憲一・S&S本部テクニカルソリューションセンター部長代理)と驚きを隠さない。
大塚商会が開催する無料セキュリティ関連セミナーの応募者のうち、実際に参加する割合は、ここ2か月間「70%を下回ったことはない」(西川靖彦・マーケティング本部テクニカルプロモーション部OSMグループ2課課長)という盛況ぶりだ。セキュリティ関連のセミナーそのものは昨年4月頃から本格化したが、参加率が70%に達したのは昨年後半から。大企業では需要が一巡したとされているセキュリティ関連ビジネスだが、大塚商会の顧客層の多くを占める中堅・中小企業におけるセキュリティ需要は衰えを見せない。
大手SI各社は、好調なセキュリティ関連ビジネスをITマネジメントサービスに組み込む動きを活発化している。粗利率が高いとされ、安定した収益が見込めることから各社はITマネジメントサービスの拡大にこぞって力を入れる。ITマネジメントサービスの中でも、ハードウェア保守や単純なサーバー預かりなどでは価格下落が慢性的に続いており、セキュリティなど新しいサービスメニューを積極的にITマネジメントサービスへ加えることは、ビジネスを拡大していく上で欠かせない要素になっている。
日本ビジネスコンピューター(JBCC)では、ハードウェア保守などを除くITマネジメントサービスの今年度(2006年3月期)の売上高を前年度比約35%増の46億円と見込んでいる。売り上げの構成要素は、セキュリティ監視サービスやアウトソーシング、ヘルプデスクなどで、それぞれのサービスを伸ばすための専任部門「マネージメント・サービス推進本部」を今年4月1日に約40人体制で立ち上げた。
セキュリティのストックビジネス化にも力を入れる。その典型がファイアウォールの運用管理を遠隔で行うJBCCのオリジナル商材「レンタル関所くん」である。03年から約2年間で600社の顧客企業が「レンタル関所くん」を利用しているが、このうち約7割は月額課金のレンタル方式で利用している。JBCCでは「残る3割もレンタル方式に切り替えてもらうよう働きかけている」(藤井実・取締役常務執行役員サービス事業部事業部長)とストックビジネス化に力を入れる。
今年度は、さらに300社の顧客に「レンタル関所くん」を利用してもらう目標を立てる。「レンタル関所くん」とセットにして、ゲートウェイ型ウイルス対策サービスやレンタルVPN(仮想私設網)サービスなどを販売することで付加価値を高め、ストックビジネスの拡大を推し進める。
■コンサルティングやSIと密接にリンク 高い粗利率と安定した収益に貢献 富士通ビジネスシステム(FJB)では、今年度(06年3月期)のハードウェア保守などを除くITマネジメントサービスで前年度比25%増の160億円を見込んでいる。売上総利益率は25%程度を見込むなど、利益率が高いのが特徴だ。ここでもセキュリティ関連商材のストックビジネス化が進んでいる。
クライアントパソコンなどにセキュリティポリシーの設定が適用されているかどうかを識別し、ネットワークへの接続可否を判断する「検疫サービス」を今年6月からITマネジメントサービスの1つに加える準備を進める。従来は検疫システムの売り切りが中心だったが、ストックビジネスへ切り替えることで「安定した収益を確保する」(FJBの村松直岐・マーケティング本部サービスビジネス推進部長)のが狙いだ。
ITマネジメントサービスの中におけるセキュリティの位置づけは、保守運用を中心としたサービス&サポートだけに広がっているのではない。セキュリティポリシーの設定やISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)、プライバシーマーク(Pマーク)などといったセキュリティ認定資格の取得支援、情報漏えいのリスク管理など、より上流に位置する経営コンサルティングやITコンサルティング、SIのなかでも、「セキュリティマネジメントは重要な役割を果たしている」(SI幹部)と指摘する。
コンサルティングやSIの後からセキュリティマネジメントがついてくるのではなく、セキュリティマネジメントが先行して、その後からコンサルティングやSIが発生することも少なくないという。つまり、セキュリティマネジメントを内包したITマネジメントサービスをコンサルティングやSIと「密接にリンクしながら相乗効果を高める」(大塚商会の佐藤部長代理)ビジネスモデルの構築が、粗利率の拡大や収益の安定化に大きく貢献すると話す。
逆に見れば、こうしたビジネスモデルを構築できないSIは、構築できたSIに比べて収益力が劣ることも考えられる。実際、中小SIの中にはセキュリティをITマネジメントサービスに組み込めていないケースも見られる。それだけに、セキュリティマネジメントを含むITマネジメントサービスの成否は今後の成長に大きな影響を与えることになる。
 | ITマネジメントサービス | | | | | | アウトソーシングや保守運用、ヘルプデスク、セキュリティなどITに関する業務のマネジメントサービスを提供するビジネス。月額契約など定期的な収益が見込めることからストックビジネスとも言われる。粗利率も高いとされる。SIの多くは、年度末に売り上げが集中する傾向があることから、収益の平準化を |  | 図る意味でも重要な役割を果たす。 セキュリティ需要の高まりから、ITマネジメントサービスの中におけるセキュリティマネジメントの比率が高まる傾向にある。セキュリティ商材を単品で販売する売買差益では収益は限られていることから、セキュリティのマネジメントサービス化を進めるSIが増えている。 | | |