日本情報取引所(JIET、二川秀昭理事長)は、年内にもNPO(特定非営利活動)法人を取得するための活動を本格化させている。6月7日開催の総会ではNPO取得を決議したが、その準備に主導的役割を果たしてきた佐々木道正専務理事は「『権威ある団体』にする上で、NPO法人化が最良の選択」と説明する。NPO法人化が実現すれば、これまで法人会員に限っていた規約を見直し、個人会員も受け入れることになる。これらにより、JIETの社会的な役割はどう変わるのかなどについて、佐々木専務理事に聞いた。
――専務理事はJIETの中でどんな役目を担っているのですか。また、JIETへ関わった経緯を教えてください。
佐々木 私の前職はシステムインテグレータのアルゴ21で採用担当をしていました。1998年2月でしたが、効率良くIT人材を採用するにはどうしたらよいかと知恵を絞っているとき、JIETの「商談会」を知り、初めて参加しました。東京の商談会だったんですが、これはよい仕組みだと思い、その場で二上秀昭理事長に大阪での「商談会」開催を呼びかけました。
当時は東京本部と神奈川支部しかまだなかったのですが、98年5月に、大阪で「プレ商談会」を実施しました。その際、最初に大阪開催を提案した私が関西支部長とJIET本部の常任理事に就任することになりました。
その後、昨年3月には、アルゴ21がJIETを退会したのを期に支部長は降りたんですが、二上理事長の勧めもあり、私自身も同社を退社、JIET常勤となる腹を固め、JIET本部の専務理事に着任しました。
専務理事としては、主に全国の本部・支部の活動支援が中心の仕事ですが、JIETが任意団体からNPO法人化に向けた作業も担当しています。また、今年4月施行の「個人情報保護法」に対応して情報漏えい防止対策に関する施策も検討しています。
――本部・支部の支援では、具体的にどんなアドバイスをしているのですか。 佐々木 いま全国組織の整備が進んでいますが、それに伴い静岡のように新しい支部の立ち上げも行われています。支部の立ち上げ手順や集客の方法、「商談会」前の講演者の手配など、裏方的にアドバイスをしています。
支部長時代には関西支部で、「商談会」以外に会員企業を対象にした「フォーラム」など、全国に先駆けたイベントをいろいろ企画してきましたが、そんな経験を生かして各本部・支部に情報提供しているところです。
――JIETのNPO法人化に向けた作業の進捗状況を教えてください。 佐々木 すでにNPO法人に向けた下準備は終え、6月7日の総会では、NPO法人の資格が取得できた段階で、任意団体を解散し、全会員と現有資産をNPO法人に移行することの賛否を問う決議をしましたが、この決議は会員企業様のご賛同を得て決定しました。
この後JIETは、全国組織なので内閣府にNPO法人化に向けた申請書を提出します。通常、申請後約4か月ほどの審査で法人格を取得できるようですが、私どもとしても少なくとも今年中にはNPO法人化が可能だと考えています。
――財団や社団などでなく、NPO法人を選んだ理由はどこにあるのですか。 佐々木 確かにいろいろな法人があるわけですが、各法人格のメリット、デメリットを検討、精査して、今年1月の理事会でNPO法人が最もメリットがあると決定しました。
はっきり言いまして、我々は遅れてきた団体でもあり、省庁再編を含む行財政改革の渦中に巻き込まれざるを得ませんでした。その中で、閉ざされた会員だけの組織から、世の中に認知してもらうJIETになるためには、NPO法人が最も適切と判断したわけです。
法人格を得る理由は、「権威ある団体」にしたいと考えたためです。日本では、政府のお墨付きというのは、今後とも大きな意味を持つでしょう。会員様が各企業の名刺に「JIET会員企業」と入れてもらえる団体にしたい、そのことで、各企業に箔がつくまでになりたいのです。
――JIETがNPO法人としての地位を確立するために、今後活動を改善する必要がありますか。 佐々木 NPO法人ではその設立要件である「広く一般市民に貢献する」活動を展開する必要があります。この点は議論が割れましたが、たとえば、各支部で実施している新卒者が会員企業と出会うための「合同企業説明会」や、技術研修やマナー研修などを活発化することで貢献したく思っております。
もう1つ、NPO法人になれば、我々会員企業だけの団体ではなくなります。端的に言えば、現在JIETは法人会員だけですが、SOHOや個人の方々も会員資格を持ち、受け入れることになります。
――従来は、法人しか会員になれなかったのに、個人会員も受け入れるということですか。その場合、規約改訂なども実施するのですか。 佐々木 これまでのJIETはエンドユーザーとIT人材を結びつけることが第一義的な目的としてありました。また、中小のソフトウェアベンダーの擁護団体として活動していくことを目指していました。中小企業をメインに活動を展開していたので、個人会員が入ると、この理念がぶれてしまう恐れがありました。
ですが、NPO法人格を取得するには、規約を変更して個人会員を受け入れる必要があります。当然、規約改訂を行い、個人会員の入会を可能にし、個人の方々にもメリットのある団体にする所存です。
――今年4月施行の「個人情報保護法」に基づく管理・運用方法を検討しているそうですが。 佐々木 JIETの中で個人情報として管理すべきものは「会員名簿」や「商談会」に参加された方の名刺です。このお客様情報管理と使い道の徹底をします。
受付時には情報を受け取る段階で、提出された方に対し、保管方法や使用方法を告げるよう各事務局に周知徹底させています。その管理・運用方法のベースを確立した段階で、事務局担当者に対して研修会を実施する予定です。
――ところでここにきて、大手ITベンダーの退会が目立ちますね。 佐々木 JIETは中小ソフトベンダーのために貢献するのが最も重要な役割です。その中で、1社ではできないことも、全体で団結して行動すれば世の中を動かし得る姿が見えるようになりました。そういう意味で、JIETの社会的な役割は日々変化しているのでしょう。
1つ付け加えますと、まだ実現はしていませんが、JIETの仲間同士が合同で株式上場(IPO)するための「フォーラム」を立ち上げていますし、これとは別に、JIETで知り合った数社で合併しIPOする会社があるなどの動きもあります。
【PROFILE】
1949年、大阪府高石市生まれ。55歳。72年、日本大学理工学部電気工学科卒。同年、日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社し、大型コンピュータの保守、システムエンジニア(SE)、営業を担当。85年、日本テクノシステムに入社(89年にアルゴ21と合併)し、開発事業部長を務める。97年、アルゴ21が株式を店頭公開した当時、人事担当に着任。98年、JIETの常任理事に就き、04年、アルゴ21退職に伴いJIET常勤の専務理事に就任した。